【連載第3回】 話し合いへ、工夫凝らす=柔軟な制度、多様な解決―弁護士会医療ADR
医療に関する争いが生じたとき、裁判によらず中立な第三者のサポートの下で相互理解を目指すことで紛争を解決する手続き。それが医療ADRだ。公開を原則とする裁判とは異なり、医療ADRは非公開で当事者の秘密が守られる。格式張った法的な議論ではなく、相互理解に根ざしたコミュニケーションで解決を目指す。
◇応諾は自発的意思で
弁護士会医療ADRは、患者側、医療機関側のどちらかが弁護士会に申し立てることによって始まる。弁護士の代理人を立てなくても当事者本人が申し立てられる。代理人選任率は、各医療ADRでまちまちだが、東京三弁護士会(東京三会)の医療ADR手続きで、申し立てた側(申立人)と申し立てられた側(相手方)の双方に代理人がいる事案は、全体の半数に満たない。
申し立てがあると、弁護士会は相手方に通知する。相手方はADR手続きに参加する(応諾)か、参加しないか選択して弁護士会に回答する。応諾せずテーブルに着かなければ、手続きは開始しない。応諾の可否は相手方の自発的な意思にゆだねられるため、各弁護士会は応諾率を高めるさまざまな工夫をしている。
相手方が応諾すると面談日程が調整され、指定された日時に両当事者とあっせん人が、原則として弁護士会のあっせん室に集まり話し合いを行う。これを「期日」と呼ぶが、面談は当事者の事情に配慮して、弁護士会以外の場所で行われることも少なくない。
期日ではまず、あっせん人から医療ADRの制度と具体的な手続きの流れについて説明が行われる。その後あっせん人は、両当事者から言い分を聴く。申立人からは損害賠償や謝罪などADRで求める結論とその理由、背景となった事情を、相手方からは申立人の言い分に対する応答とその理由をそれぞれ聞き出す。
あっせん人は、双方の言い分を整理。言い分が一致している点や食い違っている点を明らかにし、問題点を明確に整理しながら、話し合いをスムーズに進めていく。
医療ADRの期日は、1回当たり長くて2時間程度。第1回で話し合いがまとまらないときは、期日を複数回重ねることで和解を目指す。各回の終わりに、次回までの検討事項をあっせん人が当事者双方に伝え、双方が持ち帰って検討する。検討事項は事実や証拠に関するものだけでなく、法律だけにとらわれずに歩み寄ることができる可能性、双方が納得するための条件などが含まれる。全員で検討を繰り返すことで、和解に向けた話し合いが進められる。
(2017/07/31 13:09)