インタビュー

10代選手の低体重と無月経、一生を左右=東大病院「女性アスリート外来」の能瀬さやか医師

 女性アスリートには特有の健康問題がある。月経周期の異常や骨密度の低下、利用可能エネルギー不足などが代表例で、厳しいトレーニングや行き過ぎた体重制限が原因になっていることが多い。東大医学部付属病院(東京都文京区)女性診療科・産科は今年4月から「女性アスリート外来」を開設、こうした問題を抱える選手に対して障害予防やコンディショニングの観点から診療を行っている。担当の能瀬さやか医師は「特に思春期の十代の選手は生涯の健康を守るため、低体重や無月経といった問題があるなら、早めに対応してほしい」と、積極的な産婦人科受診を呼び掛けている。

 ◇利用可能エネルギー不足が影響

 「一番問題になっている」と、能瀬医師が警鐘を鳴らすのは、3カ月以上月経が止まる無月経の放置だ。

 日本産科婦人科学会と国立スポーツ科学センター(JISS)は2014年、大学の女子選手を対象に、共同でアンケート調査を実施した。それによると、無月経の割合は、運動をしない一般の大学生が1・8%だったのに対し、日本代表レベルの選手で6・6%、全国大会レベルで6・0%、地方大会レベルでも6・1%と高かった。競技別では体操・新体操やフィギュアスケートといった審美系の選手で16・7%、陸上中・長距離や自転車ロードといった持久系の選手で11・6%に達した。

 女性は通常、平均で12歳、遅くとも17歳までには初経を迎える。以後、平均28日(25~38日の間が正常とされる)周期で3~7日の月経期間を繰り返す。無月経にはさまざまな原因があるが、能瀬医師は「アスリートの場合、運動量に見合った食事が摂取されていないというエネルギー不足が一番多い」と話す。

 エネルギー不足による低体重や無月経に伴う低エストロゲン(女性ホルモンの一種)状態は、若い人でも骨量減少や骨粗しょう症のリスクを秘め、骨密度低下による骨折や、将来の不妊につながる恐れがある。先の共同調査では、持久系や審美系の選手はそれぞれ約4分の1が疲労骨折を経験していた。

 無月経は、こうした事態を招かないためのSOSとも言える。月経が3カ月以上来ない場合や、15歳になっても初経を迎えていない場合には、一度、産婦人科を受診して相談することが望ましい。

 米国スポーツ医学会(ACSM)は①利用可能なエネルギーの不足②無月経③骨粗しょう症―という三つの疾患を「女性アスリートの三主徴」と定義し、1990年代から対策に取り組んでいる。日本では、こうした女性選手への健康支援が遅れていたが、近年は機運が高まっている。


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