危険な遺伝性乳がん・卵巣がん
発症率高める遺伝子変異
新井正美順天堂大学准教授
乳がんを早期に発見できたとしても問題は残る。現在は、腫瘍を含む乳房の一部だけを切除する温存手術を選択する患者が多い。しかし、HBOCの場合は再発の確率が高いため、乳房全体を切除する全摘手術を余技なくされることも多い。新井准教授は「手術後の経過観察の頻度や精度も高くして、再発に備える必要がある」と説明する。
BRCA変異の遺伝子検査を受けるタイミングも重要になる。早期発見を考えれば若い方がよいが、遺伝子情報をどこまで知るかは一定の判断力が求められるし、費用もかかる。新井准教授は「一番分かりやすいのは、血縁のある家族に乳がんや卵巣がんを発症した人が複数いた場合だ。また現在では、BRCA異常のある乳がんを対象にした化学療法もあるので、乳がんや卵巣がんが発見された時点も一つのタイミングと言える。がんの悪性度の評価や治療法の選択にも大きく影響するからだ」と語る
ただ、HBOCは患者本人にとどまらない問題という面も見逃せない。血縁親族もBRCAである可能性が50%あるからだ。「直接的な表現をすれば、姉妹や娘、いとこやめいにも乳がんや卵巣がんになるリスクが高い可能性がある。これをどう伝えるか、あるいは伝えないのか、医師側としては非常に微妙な問題に直面させられる」
◇家族への情報提供が重要
このため、事前に専門の医師などによる丁寧な遺伝子カウンセリングを受け、家族とも話し合うことが欠かせないだろう。遺伝子検査で何が分かり、何が分からないか。そしてその確度はどの程度なのかはもちろん、判明した問題がどのような影響を、どの範囲に与えるかまで、十分に理解してもらうことが重要だからだ。
BRCA変異自体の治療はできない。結果としてこの変異があった親族一人ひとりが、患者と同じように「乳がんや卵巣がんになりやすく、重症化しやすい」という問題を一生抱えていくことになる。「こんな事実を『知りたくなかった』と考える人が出ても不思議はないだろうが、検診の徹底による早期発見・治療につなげられるなど、メリットも大きい」と新井准教授は理解を求める。世界保健機関(WHO)も「(遺伝的情報を)家族に伝えるのは道徳的義務だ」とのコメントも発している。ただし、その前提として、医療側ががんの告知と同様の慎重な対応と情報提供が求められることは間違いない。
特定の遺伝子に変異や組み替えが生じていることで、乳がんや卵巣がんを発症しやすい遺伝的な体質。遺伝子異常は遺伝するため、家系的に発病率が高くなる。乳がんで全体の約5%、卵巣がんで約10%を占めるほか、比較的若い年齢に発病する事例が多い。一度治療が成功しても、繰り返しがんを発病する可能性が高くなる。(時事通信社 喜多壮太郎・鈴木豊)
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(2018/12/09 06:10)