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全国最多の開業医、病院長を輩出
人間味あふれる医師を育成―久留米大医学部

 久留米大学医学部は、地域の臨床医を育てる教育方針のもと、1928年に九州医学専門学校として設立された。私立の医学部としては歴史が古く、開業医や病院の院長になった卒業生の数は、全国の医学部の中でも最多を誇る。内村直尚副学長・医学部長は「医療人である前に、人として社会人として患者さんに接するという方針で教育しています。病気は必ず治せるとは限らない。患者さんが病気を持ちながらどう生きていくのか、患者さんの立場にたって支える医師に育っていってほしい」と話す。

久留米大学本館(旭町キャンパス)=久留米大学提供

久留米大学本館(旭町キャンパス)=久留米大学提供

 ◇全国に6600人の同窓生

 久留米大学医学部は、日本の医学部の中で最も多くの病院経営者、診療所開設者を輩出してきた。地域医師会の会長への就任も多い。第19代日本医師会長で2017年度の世界医師会長も務めた横倉義武氏も同医学部の卒業生だ。

 「うちの大学が設立された当時は、それほど私立の医学部は多くありませんでした。国公立大学の医学部が研究者の育成に重点を置いていた時代から、久留米大学は臨床医を育てるという方針のもとでやってきました」

 全ての都道府県に同窓会があり、全国約6600人の同窓生が各地で後輩の指導に当たる。同窓の結び付きが強い点も特徴の一つだ。「先輩の先生方が背中を見せて、愛情をもって教えてくださる。自分たちの姿を通して教育していくという伝統があります」

 ◇コンサルタント制度

 学生全員を各学年数人ずつの縦割りグループに分けて1人の教授が担当し、6年間継続してサポートするコンサルタント制度をしいている。年に2~3回はグループごとに全員が集まって食事会を開く。グループ内で先輩後輩のつながりもできる。

 「入学したての頃は、初めての1人暮らしで生活が不規則になる学生が多い。朝起きられない学生にはグループの担当教授が電話で起こしたり、教授室にいったん登校させたりして教室に送り出すということもしています。朝学校に行かれないと授業についていけなくなりますから」

 規則正しい生活習慣をつけるために、4年前から100円朝食も始めた。ごはんにみそ汁、おかず2品がついたバランスのよい朝食だ。こうしたサービスを始めたのは、内村氏が睡眠学の第一人者だからだ。

インタビューに応える久留米大学の内村直尚副学長・医学部長

インタビューに応える久留米大学の内村直尚副学長・医学部長

 ◇良き習慣は才能を超える

 「1日24時間のリズムで規則正しい生活するためには、朝早く起きて日光を浴びて、朝食を食べることが大切。そうすれば、自分の持っている実力を学習や運動に対して100%発揮することができるようになります」

 生活リズムを朝型にする指導は、内村氏が教授に就任した12年前に始めたが、それ以降、医師国家試験での番狂わせが起こらなくなったという。

 「高校の先輩に帚木蓬生先生という作家がいます。先生は社会人を経て九州大学の医学部に入り、精神科の診療所で臨床医をしながら小説を書いています。『自分は天才じゃないから』と、夜9時に寝て朝4時に起き、毎日2時間1日も休まずに書き続けています」

 良き習慣は才能を超える-。内村氏は、この言葉を学生に繰り返し伝えている。

 ◇教えることで知識を身に付ける

 医学部のカリキュラムは新しい内容がどんどん増え、膨大な知識を着実に身に付けさせるために各大学は試行錯誤を重ねている。久留米大学では4年前からカリキュラムを変更し、協同学習を導入した。

 「一方的な講義を受けるだけでなく、能動的に学んでもらうために、小グループに分かれてプレゼンテーションしてもらいます。知識は講義を聴くだけなら5%くらいしか記憶に残りませんが、討論は50%、実習すると75%、人に教えることで90%は記憶に残ります。一番効果的なのは人に教えることなんですよ」

 1~2年次には老人保健施設・デイサービスやリハビリテーション施設の現場に入る機会を設けている。「最初に学ぶのが基礎的なカリキュラムなので、将来医療人として学んでいくモチベーションを高めてくれたらと思っています」

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