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武漢市、空港・鉄道を閉鎖
コロナウイルス変異を警戒
人から人へも感染-中国新型肺炎

 「コロナウイルス」による発症の多くは重症化しないとされてきた。しかし、2019年暮れから中国の湖北省武漢市を中心にコロナウイルス肺炎患者が見つかり、1月22日時点で中国全土の患者数は540人以上に上り、人から人への感染や複数の死者が報告されている。中国各地で警戒が呼び掛けられ、日本や韓国、タイ、米国などでも武漢からの渡航者の中から患者が確認された。

 世界保健機関(WHO)は、患者からこのコロナウイルスの新しい型を検出したと発表したほか、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるかどうかの議論を開始。また、武漢市で空港や鉄道駅を閉鎖し、交通機関の運行を停止する事実上の移動制限を実施、緊迫した状況が続いている。

中国・武漢市で搬送される患者=AFP時事

 ◇SARSウイルスと共通点

 通常のコロナウイルス発熱下痢、激しいせきを引き起こして自然に治る風邪(ウイルス性上気道炎)の原因の3割を占めるといわれているが、ほとんどは軽症で終わる。

 しかし、21世紀初頭に中国から東南アジアに多くの重症肺炎患者を出して姿を消した「重症急性呼吸器症候群」(SARS)=用語説明参照=や、今も中東で断続的な流行を見せている「中東呼吸器症候群」(MERS)もコロナウイルスの一種が原因だったため、今回のウイルスが問題になったのも、SARSの原因のコロナウイルスとの間に多くの共通点があると指摘されているからだ。

 このため、将来的にはこれらのような世界的な大流行(パンデミック)をもたらすことが懸念されている。

中国・武漢市でマスクをつけ外出する人たち=EPA時事

 ◇流行地への渡航避ける

 「たぶん、最初は食品市場に持ち込まれた野生動物を宿主(ベクター)とするコロナウイルスが変異を起こして市場で働く人間に感染したのではないか。そこから同居家族などに感染が拡大したのだろうが、多くの患者が出た段階で、ある程度はそのウイルスが再度の変異で人間から人間への感染能力を得ている」

 海外での感染症事情に詳しい東京医科大学病院(東京都新宿区)渡航者医療センターの濱田篤郎教授は、現状をこう分析する。その上で「現時点では、SARSのような強い感染力や毒性は見いだせない。 過度に恐れる必要は無いが、流行地への渡航はできるだけ控え、インフルエンザと同様に手洗いの励行や人混みや医療機関でのマスクの装用など、基本的な感染症対策を心がけるほかない」と話す。

 同時に、流行地で発熱などの症状が出た場合は帰国時に検疫で申告し、帰国後に症状が出た場合は、流行地から帰ってから発症したことを告げてから医療機関を受診するように求めている。過剰反応の必要はないが、備えは怠らないにようにしたい。

新東京国際空港では入国者を対象に体温測定開始

 ◇長期的な監視を

 現在でも新型ウイルスについて詳細な情報は得られていないが、問題になるのは、ウイルスの毒性と感染力、潜伏期間の三つ、と濱田教授は強調する。具体的に、ウイルスに感染した人の中で何人が肺炎を発病し、そのうちどれだけの人が重症化しているかはまだ明確ではないが、医療従事者などへの二次感染が報告されているので、短時間の接触でも一定程度の感染力があることが分かっている。

 潜伏期間の推定は実は簡単ではない。発病後に、どの程度の期間患者から排出されるウイルスが他人を感染させられるかがポイントだ。現在では、SARSなどに準じて発病後2週間を目安に警戒することになっている。

 しかも、この三つの要素は、人間の間で感染を繰り返す中でウイルスが変異するたびに変化していく可能性がある。「SARS と遺伝子構造が似ているという報告もあり、心配だ。ただ、どのようなる変異が起きるのかどうか、起きるとしても何週間後なのか何カ月後なのかは分からない。 長期的なサーベイランス(疫学的な監視)が必要になる」と濱田教授は強調する。

濱田篤郎・東京医科大学教授

 それと同時に日本で必要になるのが、SARSやMERSのように新型ウイルスが強毒化した場合の検疫体制の確認や、国内で患者が出た場合の対処法の再確認だ。SARSや2009年の新型インフルエンザの流行などの教訓から、基幹病院での発熱外来の開設や受診前の医療機関への連絡など、対応策は一定程度整備されている。

 「水際検疫の強化だけでなく、いざという場合に備えて地域の医師会や自治体、消防などの間で手順の確認などをしておくべきだ」と濱田教授は指摘している。

用語説明 重症急性呼吸器症候群(SARS)
 02年11月に中国南部の広東省で最初の患者が報告され、中国以外にも東南アジアや東アジア、カナダなどに拡大した、新型コロナウイルスによる感染症。03年を最後に感染者は報告されていないが、8000人以上の患者と774人の死者が報告されている。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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