治療・予防 2024/11/21 05:00
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糖尿病の症状は、冬から春先にかけて悪化すると言われる。体の代謝機能が落ちることに加え、日常の活動量が減るため、余分なエネルギーを消費する機会も減る。専門医を交えた患者の座談会が開かれ、「血糖コントロール」の重要性が強調された。
利根淳仁・副センター長
◇上下の幅を少なくする
糖尿病には1型と2型がある。1型は糖の代謝を調整し、血糖値を一定に保つインスリンを作ることができなくなる。生活習慣病といわれる2型は、インスリンの働きが低下する。怖いのは、網膜症や腎症、神経障害などの合併症だ。血糖値を測る重要な指標が「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」。赤血球内のたんぱく質の一種であるヘモグロビンにブドウ糖がまとわり付くと、糖化ヘモグロビンに変わる。血糖値が高いと、ヘモグロビンと結合するブドウ糖の量が多くなり、HbA1cは高くなる。
岡山済生会総合病院内科・糖尿病センターの利根淳仁副センター長によると、HbA1cの正常値の上限は6・2%とされ、糖尿病であっても7・0%未満に下げれば合併症を発症しにくいとされている。利根副センター長は「血糖値の上がり、下がりの幅が小さい方が、体への負担が少ない。血糖値のトレンド(傾向)を知ることが大事だが、それにはHbA1cを見るだけでは駄目だ」と言う。
◇血糖値は変動する
血糖値の傾向を把握することが、なぜ大切か。例えば、夜間に血糖値が下がり、その反動で朝、血糖値が上昇する患者もいれば、午前3時から4時ごろにかけて血糖値が上がる患者もいる。また、外食が多かったときにも上がりやすい。ラーメンやうどん、カレー、焼き肉など料理の種類、運動量によっても血糖値は変動する。平均値であるHbA1cが安定していても、食事の前後などに血糖値が乱高下すれば、血管を痛める恐れもある。
利根副センター長は「大事なことは血糖値をある時点だけで判断するのではなくて、継続して把握することだ」とし、(1)今の状態を知る(2)ここ数時間の状態を知る(3)今後どうなるかを予測する―をポイントに挙げた。血糖値の上昇や低下といったトレンドを把握するためには、自身で測る「血糖自己測定(SMBG)」や「持続グルコースモニタリング(CGM)」が有効だ。利根副センター長は「HbA1c測定を補完するものと考えてほしい」と説明する。
相田幸二さん
◇食品成分表示を見る
メッセージを寄せた料理研究家の相田幸二さんは1型糖尿病を発症して3年目になる。「料理を仕事とすることに悩んだ時期もあった」が、「慣れてしまえば、血糖コントロールに問題はない」と話す。現在、雑誌やラジオ番組などで料理のレシピを紹介する仕事に取り組んでいる。
管理栄養士の國枝加誉さんは、17歳の時に2型糖尿病と診断され、28年目に。「普段は食事の前後にSMBGを行っている。体がヒンヤリと感じるという低血糖の自覚症状があったりすると、必ず測る」と言う。インスリン注射により、血糖が下がり過ぎることもある。患者にとって避けるべきは血糖値の急激な増減だ。炭水化物に含まれているブドウ糖や果糖などの単糖類は早く吸収・消化され、血糖値が急に上がりやすい。一方、食物繊維には血糖値の上昇を抑制する機能がある。國枝さんは「成分が表示されている食品は、糖類に注目してほしい」とアドバイスする。
國枝加誉さん
◇おやつ・果物は大丈夫?
おやつや果物は食べてよいのだろうか? 患者のこんな悩みをよく耳にする。國枝さんは「おやつは、相当カロリーが高いものもある。食間に食べると、せっかく下がってきた血糖値が再び上がってしまう」とし、食事の最後に少量食べることを勧める。「果物は季節感や素材を楽しむものだ。どれだけの量なら食べてよいか、主治医や管理栄養士に相談してほしい」。柿は単糖類のブドウ糖が多く含まれ、血糖値が上昇しやすい。一方、でんぷんが多いバナナは運動する前の良い補食になる。そうした知識も勉強したい。
大村詠一さん
◇家事でも運動量を稼ぐ
元エアロビック競技日本代表の大村詠一さんは、1型糖尿病との付き合いが28年と長い。「高血糖になると眠くなったりしてパフォーマンスが落ちる。ゆっくり食べると、上がり方が穏やかになることを現役の時に知っておきたかった」と振り返る。大村さんは、食前に必ず血糖値を測る。さらに、大事な仕事の前や車を運転する前にも測るという。講演をする際には、前と途中、後に測る。場合によっては、講演の最中でもインスリンを注射することがある。
大村さんもコロナ禍で運動の機会が減った。そこで、日中を避けて夜の散歩で歩く距離を稼ぎ、血糖値が下がりやすくなった。「きょうはどこまで行って戻って来ようかなどと、目標を決めた方が継続できる」。洗濯物を干したり、掃除機をかけたりする家事も、大股で移動したり、体をひねったりすることで運動量を稼ぐことができる、と言う。
◇ストレスと付き合う
小まめに血糖値を測らなければならないことに、ストレスを感じる患者もいるだろう。利根副センター長は「『見える化』がすべてよい、というわけではない。見え過ぎがストレスになることもあるだろう」と言う。最後に意見を求められた東京慈恵会医大糖尿病・代謝・内分泌内科の西村理明主任教授は「ストレスになるのであれば、血糖値を見ないときがあってもよい。ただ、完全に無視するのではなく、うまく付き合っていく方向に向けたい」と語った。
「1日1回だけしか測らないこともあった。血糖値に振り回されない意識が大事かな、と思う」。國枝さんはこう率直な感想を述べ、大村さんは「自分の感覚で、予測してみる。実際の数値とのズレはどれくらいだろうか。『ゲーム感覚』でやってみたらどうか」と提案した。(了)
(2021/03/10 05:00)
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