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新型コロナウイルス感染症の流行下で、感染した人が回復後、後遺症に悩むケースが増えている。現在、後遺症の治療法として注目される「上咽頭擦過療法(EAT)」について、田中耳鼻咽喉科(大阪市福島区)の田中亜矢樹院長に聞いた。
上咽頭の粘膜をこする
▽上咽頭の炎症
新型コロナの後遺症は、倦怠(けんたい)感や思考力低下、抑うつ、頭痛、めまい、睡眠障害、脳に霧がかかったように記憶障害や集中力が低下する「ブレインフォグ」などさまざま。田中院長は「ウイルス感染後に疲労が続くなどの報告は、新型コロナ流行以前からあり、『ウイルス感染後疲労症候群』と呼ばれます」と説明する。
一方、新型コロナだけでなく、さまざまなウイルス感染後、ウイルスの増殖部位でもある鼻の奥の上咽頭粘膜に炎症が残り、慢性上咽頭炎に移行する人も少なくない。「慢性上咽頭炎は、咽頭の違和感や粘液が喉に流れ落ちる『後鼻漏』、たん、肩凝りなどの症状に加え、上咽頭が関わる神経や免疫の病気を引き起こします」
▽EATの効果
EATは、0・2~1%の塩化亜鉛溶液を染み込ませた専用の長い綿棒を鼻や口から入れ、上咽頭の粘膜を強くこする。炎症が強いほど出血しやすく痛みも伴うが、治療の継続で出血が減り、治療直後から効果を実感する患者も多い。
上咽頭は免疫器官の一つでもあり、粘膜表面のリンパ球が外部からの異物侵入に備えている。塩化亜鉛液の殺菌作用、組織の炎症を鎮静化する「収れん作用」によってリンパ球の活性化を抑える。副交感神経である迷走神経を綿棒で刺激することで、神経系の症状改善が期待できる。また、上咽頭粘膜下の炎症性物質の排出も効果の一つと考えられている。
「鼻からほぼ水平に綿棒を挿入すると突き当たる上咽頭後壁は、EATの対象部位の一部。その数ミリ手前を上方に向け挿入した綿棒で刺激する『鼻内翼口蓋(びないよくこうがい)神経節刺激法』の併用でさらなる効果が期待できます」
EATは正しい手技でなければ効果が得られない場合がある。内視鏡で部位を視認しつつ治療する「内視鏡下上咽頭擦過療法(E―EAT)」もあるが、EATを行う医療機関は、全国で343施設(2022年2月現在)にとどまる。今後、新型コロナ後遺症の治療法として注目されるEATの手技の普及が期待される。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/07/10 05:00)
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