話題 2024/12/19 05:00
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~トラブル増で専門家警鐘~
これから気温が上がり、汗をかきやすい季節になる。「少しくらい汗が多くても気にならない」という人も多いだろう。ただ、あまりに大量の汗は「多汗症」という病気で、仕事や勉学に影響する。特に脇の下の汗については女性の方が悩みは深い。専門家は「汗が気になったら、皮膚科を受診してほしい」と呼び掛けている。
手のひらの異常な発汗
◇発汗が異常に高まる
横関博雄・東京医科歯科大学名誉教授は「汗は体温を調節したり、細菌やウイルスなどの侵入を防ぐ自然免疫機能を果たしたりするなど重要な働きをしている」と話す。汗が出て来る器官である汗腺のうち、体の表面全体に分布するエクリン汗腺からの発汗が異常に高まる疾患が多汗症だ。エクリン汗腺からの発汗は通常、体温上昇や精神的刺激などに伴い、交感神経の働きでアセチルコリンという神経伝達物質が分泌されることで行われる。
全身の汗が増加する全身性多汗症には特段の原因がない「原発性」と、結核などの感染症や甲状腺機能亢進(こうしん)症、薬剤などによって起きる「続発性」がある。脇や手のひら、足の裏など特定の部位で汗が増加するのが局所性多汗症で、やはり原発性と脳梗塞や末梢(まっしょう)神経障害などの疾患に合併して起きる続発性のものがある。
横関博雄名誉教授
◇携帯、パソコン壊れることも
横関名誉教授は原発性局所多汗症の診断基準について「局所的に過剰な発汗が、明らかな原因がないまま、手のひらや足の裏、脇の下、頭、顔面に過去6カ月間認められる」とした上で、「次の6項目のうち2項目以上を満たす場合だ」と説明する。6項目とは①両側性で左右対称性②毎日の生活に支障を来す③1週間に最低1回の大量の発汗④発症が25歳以下⑤家族歴があることが多い⑥睡眠中の局所多汗は認めない―だ。
「授業中や試験中に手のひらの汗が止まらず、いつもタオルを持参する。受験に不安を感じる」
「就職してから業務に差し支えがある」
「携帯電話やパソコンがさびたり、壊れたりする」
横関名誉教授は患者の主な訴えとして、これらを挙げている。
原発性局所多汗症の重症度は、患者の自覚症状により4段階に分類する指標(HDSS)で判断する。スコア1=発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない、スコア2=発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある、スコア3=発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある、スコア4=発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある―となっている。3または4の場合に「重症」と判断される。
悩みが多い脇の下の汗
◇有病率・重症度高い腋窩多汗症
多くの多汗症患者を診療してきた池袋西口ふくろう皮膚科クリニックの藤本智子院長は「多汗症の場合、アトピー性皮膚炎やかぶれ、じんましんなど他の皮膚疾患と比べて生活の質(QOL)が著しく損なわれている」と指摘する。
原発性局所多汗症の中で特に脇における発汗症状を原発性腋窩(えきか)多汗症と呼ぶ。部位別で最も有病率が高く、発汗量による重症度も高いからだ。
過去の調査などから、日本人の10人に1人が多汗症で、このうち59.0%が原発性腋窩多汗症と推定されている。年代別では20歳代と30歳代が高く、有病率の男女比は男性の37.0%に対し、女性が63.0%となっている。原発性腋窩多汗症の患者の受診経験は4.4%と非常に低い水準にとどまる。
藤本智子院長
◇通年性の疾患
製薬企業のマルホは2022年1月、脇の汗に悩みを抱える15~69歳の男女約1500人を対象にWebアンケート調査を実施した。それによると、9割の人が「自分は脇の多汗症」と自覚している一方で、病院を受診したのは1割にとどまった。「どの病院に行けばよいか分からないから」「わざわざ病院に行くほど重大な病気ではないから」などといった理由からだ。
ほぼ毎日、脇に汗をかいて困っている人は夏が最も多く9割に上るが、冬でも3割いる。藤本院長は「原発性腋窩多汗症は夏だけではない、通年の疾患だ」と言う。
◇人間関係や恋愛にも支障
日常生活への支障について聞いたところ、「服が汚れたり、傷んだりしないか不安になる」が75.0%だった。「自身の性格や気質に対して、マイナスの影響があった」も68.9%と高い数字を示したほか、「人間関係や恋愛に支障が出ている」58.6%、「仕事や勉強に支障が出ている」51.5%などとなっている。
以下は、原発性腋窩多汗症で同クリニックを受診した46歳の女性の例だ。
高校生くらいから汗が多かったが、気にしていなかった。社会人になりスーツ着用時に染みが出てしまい、困ることがたびたびあった。出産し専業主婦となったが、家族以外の人が参加する保護者会のようなイベントには積極的になれなかった。子どもが大きくなり、40歳から飲食店のパートを始めたが、制服の汗染みを客から指摘されて本当に恥ずかしかった。42歳の時に治療法があることを知り、治療を開始。現在は汗に困らないような生活ができ、人との関わりにも自信が持てた。
◇支援組織が発足
こうした症例を基に藤本院長は「適切な治療によって症状が改善する可能性は高いので、皮膚科という選択肢があることをぜひ知ってほしい」と強調する。
もう一つ大切なことは周囲の理解と患者たちへの支援だ。最近設立されたNPO法人「多汗症サポートグループ」は、治療に悩む人たちの相談に乗ったり、啓蒙(けいもう)活動をしたりすることを目的としている。黒澤希・代表理事は「情報を発信し、『たかが汗』を変えていくことを目指して活動していく」と語る。(多汗症サポートグループのWebサイト)
◇広がる治療の選択肢
以前に比べ、治療の選択肢は広がっている。横関名誉教授らが携わった診療ガイドラインが推奨しているのは、塩化アルミニウム液外用療法とA型ボツリヌス毒素局注療法だ。前者は、脇の下に塗った塩化アルミニウムが汗管を閉塞(へいそく)させることで発汗が減少する。後者は、ボツリヌス毒素から毒素を取り除いて作った薬剤を脇の下に注射。アセチルコリンの放出を抑制し、発汗を抑える。
胸腔鏡下胸部交感神経遮断術は、胸腔鏡(内視鏡)を使い、胸部にある交感神経節を切除したりすることによって交感神経からの発汗情報の伝達を防ぐ。ただ、手術後に胸や背中、尻などかから異常に大量の汗が出るという問題があるため、患者によく説明した上で同意を得る必要がある。このほか、アセチルコリンの働きを抑える外用剤も二つ、国内で承認されている。(了)
(2022/06/07 05:00)
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