治療・予防 2024/11/21 05:00
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子宮やぼうこう、直腸など骨盤の中にある臓器が下がってきて腟から体の外に脱出してしまう骨盤臓器脱。尿がもれる、あるいは出にくい、便が出にくい、腟の入り口に何かが挟まったような違和感がある、など日常生活にさまざまな支障を来す。新しい手術法を日本に導入し、ペッサリーの開発も手掛けるなど、骨盤臓器脱の治療法の進歩を推進してきた明理会東京大和病院の明樂重夫院長は「骨盤臓器脱の治療法は、この20年で大きく進歩しています。長くなった人生をより豊かに過ごすため、我慢せずに自分に合った方法を見つけましょう」とアドバイスする。
第1回は、骨盤臓器脱とは、どのような病気か、なぜ起こるのか、具体的にどのような不都合が生じるのか、などについて解説する。
骨盤臓器脱の分類
◇出産を経験した2人に1人
―「骨盤臓器脱」とは、どんな病気ですか。
骨盤の底をハンモックのように支えている骨盤底筋が緩んでしまい、腟からぼうこうや子宮、直腸が下がって出てきてしまう病気の総称です。腟から臓器が出てきてしまうと聞くと、びっくりするかもしれませんが、骨盤底筋が緩むと、骨盤内にある臓器を支えきれなくなって、腟が裏返ってその中に落ちてきます。下がってくる臓器によって、子宮脱、子宮摘出後の腟断端脱、ぼうこう瘤、直腸瘤(りゅう)があります。
重症度(POP-Q)はステージⅠからⅣまであり、ステージⅠではまだ臓器が腟の中に収まっている状態ですが、進行するにつれて腟から外に出ていくようになり、ステージⅣにもなると、完全に臓器が外に脱出した状態になります。
―どんな原因で起こりますか。
骨盤内の臓器を支える骨盤底筋が緩む原因は、経腟分娩、難産、巨大児(4000g以上)の出産による骨盤底筋やじん帯の損傷をはじめ、肥満のため骨盤内の臓器が支えきれない、更年期以降、女性ホルモンが低下して骨盤底筋の伸縮性が損なわれる、加齢に伴い筋肉が弱まる、などです。慢性的な便秘で排便のときに、強く息むことも骨盤底筋への負担になります。また、せきや、重い荷物を日常的に持つ仕事なども、常に腹圧がかかって骨盤内の臓器が押し下げられるため、骨盤底筋が緩む原因になります。
―悩んでいる女性はどれくらいいますか。
米国の統計*によると、出産を経験した女性の2人に1人が骨盤臓器脱に悩まされています。年齢層は50歳以上が大多数ですが、20代の患者もいます。出産を経験していなくても、肥満、慢性的な便秘やせき、重い荷物を持つ、などのリスク要因が重なれば、骨盤臓器脱を起こす可能性があるので、さらに多くの女性が悩まされていることが予測されます。
*出典 Olsen AL et.al. Obstet Gynecol 1997;89:501-506
明樂院長
◇早めに婦人科か女性泌尿科を受診
―どんな症状が表れますか。
自覚症状は、下がってきた臓器に圧迫されて尿道が曲がってしまい、尿が出にくい、逆に頻尿や尿失禁がある、便秘、股の間に何かはさまったような違和感がある、などです。重症化して腟の外に臓器が出てくるようになると、動くたびにこすれてただれてしまい、下着に血が付く、おりものが増えて、においが気になるなどの問題も出てきます。脱出した臓器に引っ張られて下腹部痛が生じることもあります。朝起きたばかりのときは症状が軽く、起きて活動するうちに、だんだん骨盤内の臓器が下がってきて、夕方には症状がひどくなるというパターンが多く見られます。
これらの症状のために、外出をしにくくなって活動が消極的になり、生活の質が低下してしまう人も少なくありません。さらに、尿道が強く圧迫されて尿が完全に出なくなると、腎不全を起こし、命に関わる場合もあります。
―何科に行けばいいですか。
この病気はギリシャの医学書にも出てくるほど、古くからよく見られる病気なのですが、人にはなかなか言いづらいせいか、困っていながらも、脱出した臓器を自分の手で押し込めるなどして、対処していた時代が長く続きました。
気になる症状があれば、早めに婦人科か女性泌尿器科を受診しましょう。診察では、問診と視診、内診をすれば、すぐに骨盤臓器脱と分かります。
かつては、子宮が落ちてくるケースを性器脱と呼んで、婦人科だけの問題とされていましたが、ぼうこうや直腸も落ちてくるため、骨盤臓器脱という名称に変わり、泌尿器科でも治療を行うようになりました。
受診をためらう女性がいまだに多く、「10年前から悩んでいた」という女性が後を絶ちません。きちんと治療すれば快適に過ごせる治療法の選択肢が増えています。人生100年と言われ、長くなった人生後半を元気に楽しく過ごせるよう、もっと身近な存在として、気軽に相談に来てほしいと思います。(ジャーナリスト・中山あゆみ)
明樂重夫(あきら・しげお) 1983年日本医科大学卒業、87年同大学大学院修了。東部地域病院婦人科医長、日本医科大学付属病院産婦人科病棟医長を経て、2011年より日本医科大学産婦人科教授。22年4月より現職。
(2024/06/18 05:00)
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