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子宮筋腫って何?
~女性が知っておきたい症状と治療法~ 【第4回】

 最近、生理が長引いて経血の量も多くなったり、下腹部が張ったりしていませんか。このような体の変化がある人は子宮筋腫かもしれません。このコラムでは、子宮筋腫の概要から治療法まで解説します。気になる症状があれば、ぜひ参考にしてください。

子宮筋腫と女性ホルモンには深い関わりがある(イメージ画像)

子宮筋腫と女性ホルモンには深い関わりがある(イメージ画像)

 ◇良性で30歳以上に多く

 子宮筋腫は、子宮の筋肉である子宮筋層の中に現れる良性の腫瘍です。がん化するリスクはほとんどありませんが、大きくなると、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。

 発症には女性ホルモンのエストロゲンが深く関与。エストロゲンの影響で増殖するため、30代以降の有経期の女性に多く見られます。一方、閉経に伴いエストロゲン値が低下すると、徐々に縮小していくと言われています。

 腫瘍の大きさや数はさまざまで、レンズ豆大のものから、鶏卵サイズの平均的な子宮より大きな10cmを超えるものまであります。大きさだけでなく、個数や発生場所によっても症状の有無や重症度が変化します。数ミリの筋腫でも子宮内膜にできると月経量の増加要因になる一方、大きくても子宮の外に向かってできる漿膜下(しょうまくか)筋腫では全く症状のない人もいます。

 リスク因子としては、肥満、家族歴(近親者に子宮筋腫がいる)、未産婦、ストレスなどが挙げられます。リスク因子を理解しておけば発症予防に役立つでしょう。

 ◇経血増、不妊・流産のリスクも

 子宮筋腫の最も一般的な症状過多月経です。腫瘍が子宮腔(くう)を圧迫するため、経血量が増え、生理不順や生理期間が長くなる場合もあります。貧血が起こり、息切れや疲労感などを覚えることも考えられます。また、腫瘍の位置によっては月経痛や下腹部の重苦しさ、膨満感などの症状が出ます。

 子宮筋腫があると、不妊症のリスクが高まるのに加え、受精しても腫瘍による子宮環境の悪化で流産してしまうケースもあります。妊娠中は腫瘍が急激に大きくなり、強い腹痛を引き起こす事態も危惧されます。

 さらに、重症化すると貧血が進行したり、尿路や腸管が圧迫されて排尿障害や便秘などの合併症が起こったりします。まれですが、腫瘍がねじれるとショックなど重篤な状態に陥ることもあり注意が必要です。

 ◇治療法は2種類

 子宮筋腫に対する治療の必要性は年齢、腫瘍の状態、症状の有無や程度、妊娠を希望するかどうかなどを総合的に勘案して判断されます。症状がなく腫瘍が小さい場合は、定期的な経過観察が一般的です。症状が強ければ「薬物(ホルモン)療法」「手術療法」の二つを検討する必要があります。

 ・薬物療法

 薬物療法では、主にホルモン剤を使用して腫瘍の増殖を抑制します。代表的な薬剤にGnRHアゴニストとGnRHアンタゴニストがあります。

 GnRHアゴニストは卵巣機能を一時的に抑制し、閉経期レベルまでエストロゲンを低下させます。これにより腫瘍が縮小し、出血量の低減や貧血の改善が期待できます。

 もう一方のGnRHアンタゴニストはエストロゲンの分泌を直接ブロックし、急速にホルモン値を低下させます。腫瘍の縮小効果はGnRHアゴニストに劣りますが、副作用が軽微であるのが特徴です。経血量が多くて困っていても、内服を始めて数日で出血がほぼ止まり、楽になります。

 いずれの薬剤も長期間使用すると骨粗しょう症のリスクがあり、使用は一般的に半年程度に制限されています。また、いったん中止するとエストロゲンが回復し、腫瘍が再び大きくなる可能性があるため、薬物療法は一時的な対症療法と位置付けられています。

 ・手術

 薬物療法で十分に改善しない場合や、妊娠を希望する場合は手術療法が選択されます。主に「子宮筋腫核出術」と「子宮全摘術」の二つがあります。

 子宮筋腫核出術は、腫瘍部分のみを切除して子宮を温存します。主として今後の妊娠を希望する若年者が選択します。この手法には術後に腫瘍が再発するリスクがあります。

 子宮全摘術は子宮全体を摘出するため、腫瘍の完全な切除が可能です。再発のリスクがなく、症状の解消が期待できるものの、術後は妊娠できなくなる欠点があります。「子宮を取ったらホルモンバランスが崩れるのではないか」との質問をよく受けますが、女性ホルモンは卵巣から分泌されているので、この手術の前後でホルモンバランスが劇的に変化することは理論的にはありません。

 いずれの術式を選ぶかは筋腫の大きさや個数はもちろん、年齢や妊娠希望の有無、閉経までの年数(見込み)などを総合的に判断して決定されます。

生理の異常や下腹部の違和感があれば早めに病院へ(イメージ画像)

生理の異常や下腹部の違和感があれば早めに病院へ(イメージ画像)

 最近は腹腔鏡(ふくくうきょう)や子宮鏡下手術など、体の傷が小さくて済む低侵襲手術が普及してきました。従来の開腹手術に比べて術後の回復が早く、入院期間が短くなるメリットがあります。一方で、技術的な難易度が高いため、経験豊富な施設で受けることが重要です。

 ◇自覚症状あれば早期受診を

  子宮筋腫は女性ホルモンに影響されるため、適切な時期の治療が重要です。月経の異常や下腹部の違和感など、気になる症状に気付いたら、かかりつけの産婦人科を早めに訪れましょう。早い時点であれば効果的な治療を受けられる半面、放置すれば腫瘍が増大し、症状が深刻化する恐れがあります。

 子宮筋腫は女性の3人に1人がかかると言われ、決して珍しい病気ではありません。しかし、無症状の場合も多いため、気付きにくいのが実情です。体の変化が気になったら、遠慮なく産婦人科を受診してみてください。(了)

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、診察室での患者とのやりとりや女性医療の正しい知識をインスタグラムで毎週配信している。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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