話題 2024/12/19 05:00
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うつ病は、働き盛りの人により多く発症する。原因は患者によりさまざまだが、「仕事や家事を怠けている」などという偏見が付きまとう。東邦大学医学部の端詰勝敬教授(心療内科)は「うつ病は脳内の神経伝達物質が関わる『脳の病気』とも言うことができる」と強調した上で、治療には薬物療法、精神療法とともに患者の休養が必要だと話す。
うつ病は脳の働きに関係している
◇管理職に多い傾向
この病気の主な症状は、抑うつ気分だ。喜び、興味が失われる。本人が自覚するものとしては、眠れなかったり、だるかったりする症状が6割を超えるとされる。端詰教授は診察してきた患者の傾向について「男性では40~50代で、組織の中で責任が重くなる管理職に多い印象がある。昇進によって責任と仕事量が増す中、一人で抱え込み、発症するケースが多い」と指摘する。心理的なストレスでは、こんな例もある。突然、糖尿病と診断されると、ショックを受ける。通院、注射や服薬、食事療法、運動を課せられるといった負担がかかることで、発症につながる。
端詰教授が治療した例を挙げる。
学校関係者の患者は責任感が強かった。要職に就いてから、やる気がなくなり、受診した。診察の時には涙を流すこともあったという。
金融界で働いていた患者は定年後、経済的に不自由せず、週末に知人と競技マージャンを楽しむなど、生き生きとした生活を送っていた。ただ、結婚歴がなく、子どももいない。帰宅すると、時に寂しさでたまらなくなり、うつ病を発症した。
◇自覚症状、4つのサイン
兆候はあるのだろうか。見るからに元気がない。顔が何かどんよりしている。周囲も気付きやすいが、端詰教授は「この段階ではうつ病がかなり進行している」と言う。普段は温厚な人がいらいらし、ちょっとした事で言葉を荒らげて言い返すのも兆候の一つだ。
そういう状態に至る前のサインもあるという。自覚症状としては、よく眠ることができない、食欲がない、体がだるい、おもりを乗せられたみたいに頭が重い―といったことだ。家族や周囲の人が見て「食欲が落ち、痩せてきた。あまり眠れていないようだし、だるそうだ」と感じたときは、考えられる病気の一つとしてうつ病がある。「警告うつ」と言い、膵臓(すいぞう)がんや甲状腺機能低下、糖尿病などの病気が背景に潜んでいる可能性もある。
うつ病の診療に携わってきた端詰勝敬教授
◇神経伝達物質の不調
うつ病は「心の病」なのだろうか。端詰教授は「セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンという神経伝達物質の調整がうまくいかなくなって起きる。脳の病気だと捉えた方がよい」と話す。
片頭痛に悩む人は、うつ病を発症しやすい傾向がある。共に、セロトニンという神経伝達物質が関係しているからだ。高齢者には「脳卒中後うつ」という症状も見られる。脳梗塞や脳出血で身体の一部にまひが残るのと同様に、神経障害が起きる。
◇マイナス思考を軽くする
治療では、抗うつ剤による薬物療法とともに、認知行動療法が重視されている。患者が自身の物事に対する考え方を理解することで、より現実的な捉え方を学び、行動を修正していく。
「これまで自分は何もしてこなかった。情けない」と言う患者に対し、別の現実的な考え方を提示する。「周りから『よく頑張ったね』と言われたこともあるでしょう。それほど悲観することもありませんよ」などと話し掛け、極端なマイナス思考から引き上げる。
◇休養は月単位で
治療は短期間では終わらない。端詰教授は「4カ月以上かかることが多い」とし、「休養が必要だ」と強調する。仕事で頑張り、「自分がいないと、仕事が回らないので、長くは休めない」という患者に対し、端詰教授は「休養期間が週単位で終わるとは思わないでください。月単位になります」と説明する。
◇「頑張れ」は禁句
うつ病の患者に対し、周囲が「頑張れ」と励ますのは逆効果になる。
「車に例えると、患者はオーバーヒートした状態だ。そこに『もっとアクセルを踏め』と言っていることと同じだ」
患者の会社の関係者や家族らは励ますのではなく、患者に寄り添い、優しく見守る姿勢が求められる。(鈴木豊)
(2024/11/01 05:00)
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