Dr.純子のメディカルサロン
「ポジティブな孤独」は心を救う
「ひとりで過ごす」ことはよくない、いつも誰かとつながっていないと孤独、というイメージが強いこの頃です。ひとりで食事をすると人気がない人のように思われて嫌だという声を聞くことも多いのですが、「ひとりで過ごす」イコール「孤独」「さみしい人」「人気がない人」と判断するのは大きな間違いです。
「ポジティブな孤独」はいわゆる「孤独」「孤立」「引きこもり」とは異なり、「ポジティブな孤独」の時間を作っていることがうつ気分を防止する、という研究結果が発表されました。
◇「孤立」「引きこもり」とは違う
イスラエルのハイファ大学のシャロン・オスト・モル博士らはPS(positive solitude)すなわち「ポジティブな孤独」という概念を提唱しています。ポジティブな孤独とは、自分でそうしたいと思い、ひとりで過ごす時をイメージしていただけると分かりやすいと思います。人と関わったり、SNSでつながったりする時間ではなく、自分を見つめてゆっくり過ごす時間のことです。
モル博士らは「意味のある内面的な認知的な活動のためにひとりで過ごす時間」をポジティブな孤独と定義しており、ネガティブな孤独と分別しています。そしてネガティブな孤独や寂しさがメンタルヘルスを悪化させるので、こうした悪影響を「ポジティブな孤独」が緩和できるかを調査しました。
博士らは、イスラエルに住む68~87歳までの520人の高齢者を対象にして抑うつ症状や孤独感、ポジティブな孤独を調査しました。その結果、ひとりで過ごすという自発的な選択を楽しむポジティブな孤独と抑うつ症状との間には負の関連があることが分かりました。モル博士らは、ポジティブな孤独を過ごすことで、ネガティブな孤独の有害な結果の一部を軽減できる可能性があることを示唆しているといいます。さらに、ポジティブな孤独は、自己のつながり、認識、柔軟性、および創造性を育むリソースとして機能することにより、うつ病のレベルを下げるのに役立つ可能性があるとしています。「ポジティブな孤独」については心理学的に尺度も作られ、最近、ポジティブサイコロジーの分野で研究が進められています。
ひとりで過ごすことを悪いことのように捉える場合が多いこの頃ですが、自分と向き合ったり、自分が何を考え、何を感じているかを知ったりするにはこうした時間が不可欠だと思います。
◇自分ファーストの時間
友人や家族のように親密な関係の人と一緒に過ごすときでも私たちは相手との関係の中で相手に反応したり、共感したりしています。より距離がある他者に対してはなおさらでしょう。自分の気持ちを抑えて我慢したり、遠慮したりすることも多くなります。自分のありのままの感情を抑える時間が長いと自分が何を感じているか分からなくなる場合があり、こうした失感情状態が続くと心の活気が失われてうつ状態になることがあります。
ひとりで過ごし、自分を見つめる時間も必要(イメージ)
ポジティブな孤独は、部屋に閉じこもらなくても、例えばカフェでひとりで過ごしたり、図書館で過ごしたり、ひとりで散歩したりして「自分と向き合うために使う時間」と捉えることができます。
私は仕事の後、少しひとりで緑が多い場所を歩いたり、静かなカフェでお茶を飲んで考えごとをしたり、手帳に自分の気持ちやきょうの出来事を書いたりして自分と対話する時間を作っています。こうしたひとりの時間がなくなると、何か精神的疲労がたまるからです。いつも人と関わったり、人の話を聞く仕事をしたりしているのでそうした時間の重要性を感じてきました。特に長い時間ではなく、ほんの10分くらいでもほっとする感覚があります。
◇ひとりの時間を楽しむ
親しい人と一緒に過ごすのは楽しいことも多いのですが、なんとなく疲れるものです。そうした中で無意識のうちに「ポジティブな孤独」の時間を作っている方もいます。8人家族という男性は、自分ひとりで過ごす時間が欲しいため、朝、ウオーキングする時間を作っているそうです。身体を鍛えるためというより、ひとりで過ごす時間を作る目的なのでゆっくり呼吸を意識して歩くそうです。気持ちを整えて一日をスタートすることができそうです。マインドフルネスな「ポジティブな孤独」の時間だと言えます。
私たちは「人とつながること」が大事だといつも聞かされています。もちろん人と一緒に過ごし、つながることが大事なのは言うまでもありません。しかし、人といつも一緒にいないと不安でSNSに依存的になっていたり、ひとりでいたりすると周りから変な目で見られると思い、ひとりで過ごす自分の時間を楽しめないのは問題です。長い時間でなくても「ポジティブな孤独」という自分の時間を作ってみてはと思います。(了)
(2024/10/16 05:00)
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