一流に学ぶ 日本女性初の宇宙飛行士―向井千秋氏

(第11回)宇宙飛行に見る加齢変化 =究極の予防医学、病気にも可能性

 ◇急激に弱まる骨、筋肉

 国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する宇宙飛行士による実験では、骨量減少や筋力の低下などのデータを収集。宇宙に行くと、骨が骨粗しょう症患者の10倍の速さで弱くなり、筋肉は寝たきりの人の2倍の速さで弱くなることが分かった。

 人間は骨にカルシウムを蓄えて、血液中のカルシウム濃度を一定に保っている。しかし、重力のない宇宙では骨への負荷が少なくなるため、骨からカルシウムが溶け出し、骨量減少や尿路結石の危険が高まる。

 そこで、宇宙飛行士に対して骨粗しょう症の治療薬・ビスフォスフォネート剤を使った介入実験を行った結果、すでに骨粗しょう症を発症した患者ではなく、健康な人に対しても予防効果があることが判明した。

 「骨の吸収を阻害する薬を、まったく骨が弱くない健康な人に使って効くかどうかなんて、地上では調べようがないでしょう。この研究がもとになって、がんの骨転移とか、骨が弱くなることが分かっている人に対して予防的に使うことができるようになりました」

 宇宙で無重力の環境に適応し、帰還後は重力のある地上に再適応する。そのために、宇宙飛行士には、食事運動を中心としたリハビリプログラムが用意されており、たった45日間で元の健康な状態に回復させる。

 普通なら何十年もかけないと分からないことが、元気な人が病気になってまた治る過程を凝縮して見られる。向井氏は「病気の現象がどうやって起きるのか、そのプロセスを解明すれば、将来、宇宙に長期滞在する宇宙飛行士だけでなく、地上で苦しむ病気の人たちにもきっと役に立つはずです」と話す。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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