一流に学ぶ 日本女性初の宇宙飛行士―向井千秋氏

(第10回)「重力」は不思議な世界 =本のページめくれることに感動

 宇宙体験の面白さをより実感できたのは、むしろ地球に帰還した後のことだった。地上に降りると、向井千秋氏は急に頭の重みが感じられるようになって、首が痛くなったという。「紙1枚ですら重く感じた。物を手から離すと床に落ちる。椅子に座ったり、本のページをパラパラめくったりできるのにも感動した。まるで物と物が磁石でくっついているみたいだった」

 外出先でハンドバッグを手から離すと地面に落ちるのが面白くて、向井氏はつい何度も繰り返してしまい、周囲の人に変な目で見られたこともあった。「この地球が重力に支配されていることに、われわれは慣れちゃって当たり前だと思ってる。けれども本当は重力がある方が不思議。月が昇って太陽が沈むとか、言葉遣いでも『上下』とかいう表現があるが、それは重力がある特別な世界にいるからなの」

 宇宙から見ると、地球という惑星がいかに稀有(けう)な存在か実感できるという。「いっぱい星がある中で、こんなふうに多様化した生物が住める場所は、地球しか見つかっていない。地球の方が特殊なんだけど、住んでいるわれわれには当たり前で、ありがたさがなくなっている」

 宇宙に行ったからといって、向井氏の人生観が変わったわけではない。しかし、予想していなかった地球の重力を体で感じられた。それが宇宙飛行で最も感動したことだった。帰還後、もう一度、宇宙に行きたいと思うまでに、そう時間はかからなかった。

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