一流に学ぶ 角膜治療の第一人者―坪田一男氏
(第10回)新しいフィールドに挑戦=「プラスの医療」の時代へ
レーシックがはやり出すと、ビジネスとして安価をうたう施設が続々と参入し、治療の質の低下が問題となってきた。
「レーシックの問題ではなく、医師のモラルの問題で、レーシック自体のイメージが悪くなったことが残念で仕方なかった。それで、ここへ行けば安全に手術が受けられるというネットワークをつくろうと思い立ちました」
『安心LASIKネットワーク』を立ち上げ、ホームページにレーシックに関する情報提供や会員リストを掲載した。
眼鏡をかけたり、コンタクトレンズを着用したりすれば、わざわざ手術を受けなくてもよいと考える人もいる。一方で、裸眼で見える価値や快適さを得るために手術を受けたいと考える人もいるだろう。それは本人の選択だ。
2004年12月のスマトラ沖地震で津波に遭遇して助かった男性が、その1か月前にレーシックを受けていたことがニュースになった。
「遠くにヤシの木より高い波が迫って来るのが見えて、とっさに二人の子どもに浮き輪を付けて両脇に抱えました。レーシックを受けていたから津波が見えたんです」
坪田氏との対談で、その男性は奇跡の体験を語った。
夜中に大地震に襲われたりした場合コンタクトレンズを着けている余裕はない。避難所に行っても清潔な水がないため困る人もいる。眼鏡をかける時間がなかったり、破損してしたりする恐れもある。2011年の東日本大震災の後、レーシック手術を受ける人が急増したという。
◇逆風が吹く
しかし、思いもよらない逆風が吹いた。2013年12月、消費者庁がインターネットのアンケートでレーシックの4割に不具合という結果を発表、「レーシックは怖い」という情報がまたたく間に広がった。
「4割に不具合が起きる治療であれば、眼科医は誰もこの治療を行っていません。僕自身、自分の娘や息子には20歳の誕生日にレーシックをプレゼントしました。娘に『レーシックって本当は危ない手術だったの?』と言われ、大変ショックでした」
坪田氏は安心LASIKネットワーク代表の立場で、消費者庁発表の翌日に声明文を発表。2カ月後には記者会見を開いて、レーシックについての正しい理解を促した。
「レーシックは、適応を正確に診断すること。そして、受ける方のライフスタイルや見え方の希望をよく伺って目標視力を定める。さらに術後のフォローアップが何より大事です。宣伝や価格ではなく、自分の目の健康を生涯まかせられると思える施設で受けてほしい」
必要としている人に最良の治療を提供すること。それが医療の本質だと坪田氏は言う。
→〔第11回へ進む〕目は老化のバロメーター=アンチエイジングで世界リード
←〔第9回へ戻る〕日本トップの再生医療=冊子に込めた支援者への感謝
- 1
- 2
(2017/09/19 15:05)