一流に学ぶ 角膜治療の第一人者―坪田一男氏

(第9回)日本トップの再生医療=冊子に込めた支援者への感謝

 通常の角膜移植では視力が戻らないケースもある。そうした難治症例に対し再生医療を用いた新しい治療法として坪田氏が世界に先駆けて症例報告をしたのが、「角膜上皮の幹細胞移植」だ。これは1999年の6月に「New England Journal of Medicine」の巻頭論文として掲載され、世界初の体細胞移植として話題となった。

 ◇ほぼ失明状態を救う

 角膜上皮の幹細胞移植は、その後テレビや新聞で大きく取り上げられた。そのニュースや新聞報道を見て、坪田氏のもとに多くの患者が訪れた。群馬県に住む25歳の青年もそのひとりだった。勤務先の食品加工工場で劇薬を浴び、右目の角膜が白く濁りほとんど見えなくなってしまった。

 「角膜の表面を覆う上皮細胞は3カ月のサイクルで新陳代謝を繰り返し、常に新しい透明な状態を保っています。新しい上皮を作り出すのがその元となる幹細胞で、ちょうど植物の種に当たる部分。この青年はこの上皮の幹細胞が破壊されてしまったため、たとえ角膜を移植したとしても、上皮の新陳代謝が行われず、透明な角膜を維持できないのです」

 そこで青年は、坪田氏のもとで角膜上皮の幹細胞移植を受けることになった。

 まず、幸いにして被害を免れた右眼の健康な角膜表面から1~3ミリ角の切片を採取。ここに角膜上皮の種となる幹細胞がある。培養液に漬けて培養し、2週間後に切片の幹細胞から上皮が再生され、直径3センチの上皮シートにまで成長した。2度目の手術で再生された角膜上皮シートを右目に移植し、3カ月観察した結果、正常に上皮の新陳代謝が行われていることが確認できた。3度目の手術でアイバンクから提供された角膜全層を移植すると、1週間後には視力が0.3にまで回復した。

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