女性アスリート健康支援委員会 思春期の運動性無月経を考える

健康むしばむ競争はもうそろそろ改める時期
思春期女子の将来守れ、五輪メダリスト指導者の提言

 ◇中高生は楽しく、大人は自己決定で世界へ

 小学生は、いろんなスポーツを楽しんでやり、その中で自分に合うものを見つけるとよい。中学生や高校生には「中長距離を走りたいともし考えるなら、一番頑張っていい時期はずっと先だから、今は無理せず楽しんでやろう」「安定して月経が来ている子たちは、月経が止まらない範囲で一生懸命トレーニングをしよう」と言いたい。

 「世界を目指すにしても、中高生の時には無理をしないでほしい。一番頑張っていい時期はずっと先」と話す山内武大阪学院大教授
 高橋尚子のような長距離選手を目指すにしても、中学では800メートル走まで、高校でも800メートル走を中心に、せいぜい1500メートル走までにして、まずはスピードやパワーを強化した方がいい。彼女は高校でも800メートル走までしか走っていない。

 小中学生の駅伝は少なくとも全国大会はやめたほうがいい。競争が過度になるからだ。米国ではスポーツの多くは、高校くらいまで全国大会がない。競争を適正な範囲に収めていくのが教育ではないか。

 心身共に大人になり、指導者ではなく選手本人で決めて、人生を懸けて勝負するなら「軽量化戦略を取るな」とは言えない。20歳以降、世界で戦う選手は、勝負する時にはやはり、体脂肪率を10%以下にしぼり込まざるを得ないだろう。体重階級制のボクサーや柔道選手のように、陸上選手もレースに合わせて体重・体脂肪をしぼり、レース後にオフを取るとよい。今は、結果を求められる大会が多過ぎ、常に体をしぼり込む羽目になるが、軽量化は半年に1回か1年に1回が望ましい。

 ◇女性だからと勝負させないのもおかしい

 シドニー五輪の女子マラソンで優勝し、両手を上げて喜ぶ高橋尚子選手=2000年9月(AFP時事)
 男性と女性は違うから、女性はスポーツをやらなくてもいいという発想があるなら、おかしな話だ。中学・高校の運動能力テストをみると、女子の能力は標準的には男子の70%から75%くらい。それがトップレベルのアスリートになると、90%から95%くらいに近づく。トレーニング次第で女性も男性並みの運動能力を獲得できる。一般の男性で男子の世界記録の95%、つまり女子の世界記録のレベルで走れる人はめったにいない。

 中学や高校の部活では、選手が意欲満々でもあえて「熱くなるまで鉄は打たない方がいい」という状況がある。だが、思春期を乗り切って体を完成させた20歳以降は、もう十分、鉄は熱くなっているので、男性と同じように自らの決定で、トップレベルの勝負に挑戦させればよい。(聞き手=水口郁雄)

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 山内 武氏(やまうち・たけし) 1962年生まれ。筑波大大学院修了。スポーツトレーニングの専門家で、大阪学院大赴任後、女子駅伝チームを立ち上げ、陸上競技部監督、総監督として高橋尚子選手(当時)らを指導する。現在、大阪学院大教授(経済学部長)。ランニング学会副会長。56歳。


◇勝利至上の「軽量化戦略」やめて  中高生選手の無理な減量、尾を引く影響(シンポジウム報告・上)

◇アスリートに多い摂食障害  女子選手の健康問題、予防と早めの対応を(シンポジウム報告・下)







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