女性アスリート健康支援委員会 思春期の運動性無月経を考える

健康むしばむ競争はもうそろそろ改める時期
思春期女子の将来守れ、五輪メダリスト指導者の提言


 ◇鉄剤問題の根本にあるのは食事制限

 女子選手の健康被害を理解しながら、「そんなこと言っても、体を軽くしないと勝てない」と考えている部活の指導者に対しては「その年代で今勝つために、選手の将来を捨てていませんか」と言いたい。「オリンピックで活躍する芽を摘んでいませんか」と訴えかけたい。

 シンポジウム「思春期の運動無月経を考える」で特別講演した山内武大阪学院大教授=2018年12月22日、東京都内
 10代に無月経で骨密度が低くなると、すぐ疲労骨折しなくても、大学や実業団で練習強度が上がった時期に耐えられず、23~24歳で引退する選手が多い。思春期は、無月経を長期化させないことが何より大事だ。レースを見て、「あの選手はぽっちゃりしているので、もっと体をしぼらないと」などと言う人も多いが、見る側の意識も変えないといけない。

 貧血治療に用いる鉄剤注射が持久力向上目的で行われたと問題になったが、問題の根本にあるのは軽量化を目指す食事制限による低栄養状態だ。たんぱく質、鉄分とも大幅に不足し、鉄欠乏性貧血が起きても、鉄剤注射で一時的に貧血状態を解消できれば、低体重のままなので高いパフォーマンスが期待できてしまう。日本陸連は鉄剤注射の原則禁止を決めたが、今後も鉄剤の内服薬やサプリメントを選手に取らせる指導者が出るだろう。

 次回の全国高校駅伝で日本陸連は、レース前に出場校から血液検査結果の提出を求めるそうだ。鉄剤注射を抑止するためにヘモグロビンやフェリチンの数値を調べるのだろうが、せっかくなら栄養状態やエストロゲンの状態も、できれば産婦人科医らに依頼して、調べてはどうか。陸連が実態を把握しないと、実効性のある規制はできない。

 ◇ランニングのイメージと価値を守れ

 大学で高橋尚子を指導した当時も、軽量化の弊害は分かり始めていた。2002年に出した「努力の天才―高橋尚子の基礎トレーニング」という本でもその問題に触れたが、当時より状況は悪化している。女子マラソンは弱くなったといわれるが、その根本原因は中学・高校時代にある。

 シンポジウムでは、山内氏の特別講演に続いて産婦人科医や公認スポーツ栄養士、精神科医らによる講演と総合討論が行われた
 全国高校駅伝は、競技の普及にはとても役立ったと思う半面、冷たい言い方をすると、当初の目的は終わったような気がする。健康被害の放置は「走ることは美しい」「強くて速い」といった高橋尚子らが築いたランニングのイメージを消し、その価値を台無しにしようとしている。早く手を打たないといけない。

 無月経などの健康被害は、体操・新体操やフィギュアスケートのような審美系や、体重階級制の競技の選手たちにも共通の問題だ。東京五輪を前に、これだけスポーツが盛り上がっている今、以前は放置されていた体罰やパワハラなども、世の中で問題になっている。一昔前の価値観、自己犠牲を伴う文化は徐々に変わってきた。その中で女性スポーツをどうやって強くするか、知恵が問われている時代だ。


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