「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

ステージで異なる-緩和ケア〔5〕
副作用対策から鎮痛、鎮静

 一般に病状が進行すると、さまざまなつらい症状が出ることがあります。どんな症状がどの程度出るかは個人差が大きく、周囲から分かるような苦痛が少ない場合もあれば、その逆もあります。早くから治療と共に緩和ケアの専門家と接触しておく意義は、苦痛が大きくなった場合に遅滞なく対応に移れる点です。

 ◇抗がん剤の副作用

 たとえば抗がん剤治療です。昔のイメージと言えば、「副作用がつらいだけで、その割にはたいして延命されない…」でした。いまだにそんな印象を抱かれているかもしれません。しかし現在の抗がん剤治療は進歩し、副作用対策も徐々に進んできています。分子標的薬=用語説明=など、旧来の抗がん剤と比較して全体的な副作用が軽い薬剤も登場しています。

二つの緩和ケア(出典=国立がん研究センター・がん情報サービス「化学療法全般について」)

二つの緩和ケア(出典=国立がん研究センター・がん情報サービス「化学療法全般について」)

 抗がん剤治療の良い点は、効いていれば命も長くなり、症状も抑えられることです。がんが進行しないので症状が抑えられ、がんが縮小したり炎症が軽減したりすれば痛みなどの症状も緩和されるのが普通だからです。

 このため、治療期においては、がんの症状というよりも、抗がん剤治療の副作用の緩和が大切になります。がん拠点病院などの緩和ケアチームに所属していたり、緩和ケア外来を担当していたりする緩和ケア医は治療の副作用の緩和にも携わります。

医療用麻薬のモルヒネの原料となるケシ(大津秀一氏提供)

医療用麻薬のモルヒネの原料となるケシ(大津秀一氏提供)

 ◇痛みの程度を知る

 一方で、がん治療が効かなくなってくると、がんそのものの症状がしばしば出現してきます。その代表的なものは痛みです。がん細胞が増殖して骨を破壊したり、臓器や神経を圧迫したりして痛みが出てくるからです。

 この痛みに対しては、医療用麻薬や他の鎮痛薬などを組み合わせて治療します。医療用麻薬はがんの痛みを訴える患者さんに使用しても、くせになったり命を縮めたりはしません。

 ただし適量に設定しなければいけません。少なすぎれば効きませんし、多すぎると眠気が強くなります。また医療用麻薬は、骨の痛みや神経の痛みにも効きますが、医療用麻薬だけでこれらの痛みを消し去るのは難しい場合が多いです。このため、医療用麻薬や他の鎮痛薬などを組み合わせて治療する方法が取られています。

 このような難しい痛みの場合は、原因を突き止め、どのように薬やその他の治療を組み合わせ、かつ副作用をできるだけ出ないようにさせるか。これらの諸問題をクリアするためには、緩和ケアの専門家としての力量が試されます。このためには、しばしば過小に申告される患者さんから痛みの程度をしっかり伝えてもらうことが前提になります。

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