こちら診察室 依存症と向き合う

第1回 ゲーム障害も疾病 
依存症への対応、新段階に【依存症と向き合う】 久里浜医療センターの「今」

 ◇患者本人だけではない!

 依存症はこれまで、患者本人の問題と認識されてきました。例えば、依存者数は本人の推計値のみが公表され、対策も本人の問題の大きさに焦点が当てられてきました。しかし、依存の特性として、患者本人を取り巻く家族ら関係者にも深刻な問題が引き起こされます。

 アルコール依存の場合、家庭内の暴言や暴力、予見できない行動、経済的問題などで配偶者のみならず、子どもたちまで極限的なストレスにさらされています。ギャンブル障害は、いつ終わるともわからない借金問題に家族は振り回されます。

世界保健機関(WHO)本部=スイス・ジュネーブ 【AFP=時事】

 ◇無力感・絶望感

 ゲームに没頭し、不登校や成績不振から将来が危うくなっているわが子を目の前にして、何もできない両親の無力感や絶望感は察してあまりありますが、家族らに対してはあまり注意が向けられていませんでした。

 先に紹介した最新のWHO国際疾病分類は、「物質依存までは至っていないが、何らかの健康問題を引き起こしている状態を有害な使用パターン」と明記し、患者の物質使用により家族がうつ病のような健康問題を引き起こした場合についても、これを適用して診断するとしています。

 物質使用にまつわる患者からの悪影響を初めて疾病化したわけで画期的です。今後、この方面の対策にさらに光が当たることが期待されます。

 ◇治療ギャップ

 依存症をめぐる課題は山積していますが、ここでは特に医療に関係したものを取り上げます。一般に、治療を受けなければならない人と実際に治療を受けている人の数や割合の差を治療ギャップと呼びます。依存症はすべての精神疾患の中で、このギャップが最も大きいことが世界的に知られています。

 まずは、このギャップを埋めて行く対策が必要です。例えば、アルコール依存症者の多くは救急外来や一般内科を受診します。この時から依存症の専門医療と連携することはギャップ対策に有効です。このような医療連携に留まらず、さまざまな連携の推進が求められます。

久里浜医療センター

 ◇マンパワー

 依存治療においては本人のみならず家族等への対応も必要で、相応のマンパワーが不可欠です。治療に当たるのは主に精神科ですが、残念ながら多くの精神科医は依存治療を忌避する傾向が強いのが現状です。そのため、問題の大きさに比べて対応できる医師数が限られています。

 同様の傾向は、看護師や心理士等のいわゆるコメディカルスタッフにも認められます。この状況を変えていくためには、医療界での意識改革に加えて国の後押しが必要です。

 ◇治療の向上

 最後は治療についての課題です。依存治療の主体は言語による介入です。認知行動療法や動機づけ面接法など新しい手法が導入され、それぞれ有効性が確立されています。しかし、治療成績が向上しているかというと、必ずしもそうではありません。

樋口進氏

 これに対して薬物治療は以前から副次的な治療方法とされ、使える治療薬も限られています。特にギャンブルやゲーム障害に対する治療薬は全くない状態です。今後、有効な治療薬の開発が強く望まれます。利用できる治療薬が増えるれば、依存の治療に興味を示し、実際に診療する医師数も増えていくと予想されます。(久里浜医療センター院長・樋口進)

樋口進氏(ひぐち・すすむ)
 東北大学医学部卒。米国立保健研究所留学、国立久里浜病院臨床研究部長などを経て国立病院機構久里浜医療センター院長。依存症対策全国センター長、国際アルコール医学生物学会(ISBRA)前理事長、日本アルコール関連問題学会理事長、国際嗜癖医学会(ISAM)アジア太平洋地区代表、国際行動嗜癖研究学会理事。
 内閣官房ギャンブル等依存症対策推進関係者会議会長、厚生労働省アルコール健康障害対策関係者会議会長など委員多数。

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