こちら診察室 依存症と向き合う

第7回 依存症は「家族を巻き込む病気」
患者本人にとどまらず ~久里浜医療センターの「今」~

 依存症は本人の健康問題にとどまらず、配偶者や両親、子どもら家族の精神的、身体的な健康を害し、社会生活にも多大な悪影響を与えます。「家族を巻き込む病気」とも言われてきました。そうした家族は暴力を受けたり、暴言や言動に振り回されたりしている上、治療費や生活費といった経済的問題に日々直面。将来への不安を慢性的に抱えています。心身ともに疲弊しきっているケースが多いのが実情です。

 そうした家族は、依存者本人と接する機会を最を多く持っています。長い回復過程で経済的、精神的な支援ができる最重要のキーパーソンでもあるだけに、家族の健康維持は不可欠と言えます。

 ◇家族に休息を

 そんな家族にはまず第一に休息が必要です。心と体を癒せる時間と場所を確保し、心理的な教育支援も求められます。

 そうした支援や機会を提供している公的機関としては、依存症を専門とする病院やクリニック、専門相談窓口を設けている精神保健福祉センター、保健所などがあり、さまざまな情報や助言を得られます。

 精神保健福祉センターはメンタルヘルスに関する高い専門性を持ち、個別相談などを実施しています。家族会や自助グループ、回復施設でもさまざまな支援が得られます。訪問看護やヘルパー、生活保護などについてソーシャルワーカーらに相談するのもよいでしょう。

〔ゲーム依存の中学生〕
 ◇不登校、昼夜逆転

 家族への支援について、オンラインゲームに依存する中学1年生のA君と母親Bさんのケース(架空事例)で考えてみようと思います。

スマホゲームに熱中する学生(イメージ。本文とは関係ありません)

スマホゲームに熱中する学生(イメージ。本文とは関係ありません)

 A君は、中学に入学してスマートフォンを購入してもらい、小学生の時から友達と楽しんでいたオンラインゲームをスマホでもできるようになりました。そんな時、部活動での友達とのトラブルから不登校気味になり、昼夜逆転。トイレでもスマホを手放さず、ゲームばかりするようになりました。

 父親は単身赴任で不在。Bさんが注意すると「うるさい。死ね。消えろ」と暴言を吐いたり、殴るそぶりをしたり、壁やドアを壊したりします。身体もBさんより大きく、怖くて注意することも少なくなってきました。

 ◇「自分でなんとか…」

 周りに相談しても「今は反抗期。そのうちによくなる」「あなたの対応がよくない」など助けになるアドバイスはもらえません。それどころか、傷つくことが多く、「自分で何とかするしかない」と考えるようになりました。

 A君は課金ゲームのために家のお金を盗んだり、「今からコンビニでプリペイドカードを買ってこい!」などと深夜にマンションで大きな音を出したりします。

 スマホやゲーム機器を取り上げた時に逆上して刃物を持ち出したため110番通報したこともありました。しかし、警官が来るとすぐに静かになり解決には至りません。「このままではいけない」と思っていましたが、Bさんも疲労困憊(こんぱい)し、好きにさせるしかない状況になっていきました。

 ◇責めない、否定しない

 Bさんが適切な対応を取るには、先に触れたようにまずは休息し、心と体を癒す環境を整える必要があります。そのためには、次の二つが大切です。

 一つ目は、安心できる第三者(支援者)です。「この人は正直に気持ちを話しても私を責めない」「否定しない」「分かってくれる」「この人とつながっていれば、うまくいくかも」と感じられる人です。

 支援者は話を聞いた上で「きょうは、よく来られました」「これまで一人で本当によく頑張ってきましたね」「私があなたと同じ状況でしたら、同じことをしていたかもしれない」といった言葉をかけます。さらに、再び同じような状況に陥ったり、新たな事態が起きたりした時の具体的な対処方などをアドバイスできる人です。

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