こちら診察室 依存症と向き合う

第1回 ゲーム障害も疾病 
依存症への対応、新段階に【依存症と向き合う】 久里浜医療センターの「今」

 近年、依存症がにわかに注目されるようになってきました。それには、さまざまな理由があります。昨年は特に、違法薬物使用で有名な芸能人が何人も逮捕され、マスコミに切れ目なく取り上げてられてきました。彼らの逮捕容疑は薬物使用ですが、その背後に重い依存症が存在しているのは疑いないでしょう。自分の生活や名声を失うリスクを冒してまでも使用し続けていたのですから。

 陰に隠れていますが、アルコール依存は飲酒人口の多さからから、薬物以上に深刻です。私どもは、2013年実施の実態調査を基に、わが国のアルコール依存症者数を107万人と推計しました。この現状を受けてアルコール健康障害対策基本法が同年制定され、各都道府県で推進計画が実施されつつあります。

依存症の分類

依存症の分類

 ◇「物質依存」と「行動嗜癖」

 さて、依存症の注目度が上がった別の大きな理由は、ギャンブルとゲームが依存症の仲間入りをしたことでしょう。そこでまず、依存症とはどのようなものなのか、また依存症として国際的に分類されたプロセスについて簡単に説明します。

 ある行動の行き過ぎとそれに起因する問題のセットを依存または嗜癖と呼びます。図のように、依存の一番大きなくくりは「嗜癖(addiction)」です。その下に「物質依存」と「行動嗜癖」があります。

 依存または依存症は本来、アルコールや薬物のような物質に使われる用語です。嗜癖という用語は、世界保健機関(WHO)等でできるだけ使わないようにしているため、ギャンブルとゲームには嗜癖ではなく、分かりやすい障害という用語が使われてきました。

依存症…それは誰もがかかりうる「心の病気」

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 ◇アルコールと同じ脳内変化

 そのギャンブル障害は依存ではなく、窃盗症や放火症のように衝動のコントロールができないために起きる「衝動制御の障害」の一つで医学的な分類に基づく名称は「病的賭博」でした。しかし、19年5月にWHO総会で採択された新たな疾病国際分類で正式にギャンブル障害となり、依存に分類されています。

 それでは、なぜ依存に分類されたのでしょうか。

 ギャンブル障害の症状は窃盗症などよりも、アルコールなど物質依存に近かったのが理由の一つです。さらに決定的だったのは、物質依存を特徴づける脳内の機能変化がギャンブル障害でも同じように認められたことです。

 ◇患者・家族に朗報

 アルコールなど物質依存に関する予防対策や治療手法のエビデンス(証拠・根拠)は、窃盗症など「衝動制御の障害」に比べてはるかに豊富です。今後はギャンブル障害に対して、こうした物質依存の知見を適用できるメリットは大きいと言えます。

 ゲーム障害も基本的に同じ理由で依存に分類され、今回初めて疾病化されました。最新の国際疾病分類の検討プロセスでは、さまざまな利害が絡む個人・団体から「ゲーム障害の疾病化」について抵抗を受けましたが、疾病化により治療や予防対策の前進が期待できます。困難を抱えている多くの若者や家族にとって朗報と言えるでしょう。

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