こちら診察室 内視鏡検査・治療と予防医療
食道がん、内視鏡で治療するケースも 【第3回】
食道は喉と胃をつなぐ筒状の臓器です。口から入った食べ物や飲み物を胃に送る役割を担っています。今回はこの食道に発生するがんについて解説します。
◇死亡率は低下
食道は体の中心辺りに位置し、前(胸側)には気管、後ろ(背中側)には背骨があります。胃や腸と違って食べ物を消化する機能はなく、筋肉で作られた飲食物の通り道にすぎません。食べ物が流れてくると、食道の壁が動いて胃に送り込みます。出口には胃の内容物を逆流させないような仕組みが備わっているため、食べた物を吐かずに続けて食事ができるわけです。
日本の食道がんの罹患(りかん)率は、男性が横ばいから緩やかな増加傾向、女性は横ばいです。一方、死亡率は男女ともに減少傾向で、早期発見・早期治療の広がりや治療法の発達が寄与していると考えてよいでしょう。タイプ別では扁平(へんぺい)上皮がんが最も多く、危険因子としては喫煙・飲酒、予防因子としては野菜・果物の摂取が知られています。喫煙をしている人は全くしていない人に比べ、扁平上皮がんの発生率が10倍程度高いとされています。
がんの部位別罹患率の推移(がん研究振興財団「がんの統計2023」より)
また、東アジア人(日本人、中国人、韓国人)の約36%が飲酒時に顔が赤くなる生理的反応を示します。この体質の人はフラッシャーと呼ばれ、遺伝的にアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が欠損しています。フラッシャーは食道がんの発生率が10倍程度高くなると言われるほか、たばこを吸うとリスクは数十倍に高まるとされており、一層の注意が必要です。
国立がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告」より
◇胸のつかえ・痛み、せき
がんは食道の内側にある粘膜から発生し、進行すると粘膜を越えて、その外側にある粘膜下層、固有筋層へと入り込み、さらに進行すると食道の外まで広がっていきます。初期には自覚症状がないことがほとんどですが、進行につれて飲食物を飲んだ際の胸の違和感やつかえ、体重減少、胸や背中の痛み、せき、声のかすれなどの症状が出現します。
食道がんが疑われると検査が行われます。造影検査と内視鏡検査が中心で、胃がんの記事でお話ししたように、内視鏡検査の方が診断能力は高く、がんの早期発見が可能です。発症が確実な場合、進行度合いを調べた上で治療方針を決定します。
◇逆流性食道炎から転化も
食道がんと関わりの深い病気として逆流性食道炎があります。胃液や食べた物などが食道に逆流すると、胃酸も一緒に流れ出て、食道に炎症を起こしてしまうのです。
逆流性食道炎はBarrett (バレット)食道と呼ばれる食道粘膜の変化を起こし、時としてこの部位にあるバレット腺にがんが生じます。日本では食生活の変化、肥満の増加、ピロリ菌感染率の低下などにより、同食道炎をはじめとした胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease;GERD)が増えており、バレット腺がんの増加も懸念されています。
◇治療法は六つ
食道がんの治療法は、がんの大きさ、種類、病期によって異なり、主に以下の六つです。
手術: 最も一般的な治療法。外科的手術によって食道の一部または全てを摘出。
化学療法: 抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃。手術の前または後に行ったり、放射線療法と併用したりするケースも。
放射線療法:X線や陽子線などを用いてがん細胞を攻撃。しばしば化学療法と併用。
標的療法: がん細胞内の特定の化学物質を攻撃する薬を使用。
免疫療法:免疫系ががん細胞を認識して攻撃するのを助ける。
内視鏡治療: 早期のがんを内視鏡を用いて切除。
日本消化器内視鏡学会ホームページより
◇転移なしが条件
食道がんの一部は内視鏡治療が可能で、がん細胞を周囲の粘膜と一塊で切除できます。ただし、リンパ節転移のリスクが低い場合に限られます。同リスクは、がんが深いほど大きくなります。粘膜上皮(EP)や粘膜固有層(LPM)までの深さと考えられるときは内視鏡が使えると考えてよいでしょう。
最近では、がんが粘膜固有層より深くまで到達していると思われるケースでも内視鏡手術を行うことがあります。対象となるかどうかは症例の多いクリニックに相談してください。
胸や背中の痛み、せき、声のかすれなどの症状は、食道がんだけではなく、肺、心臓、のどの病気が原因で起こることもあります。心当たりのある人は近くの医療機関に足を運び、必要に応じて内視鏡検査などを受けましょう。(了)
高木院長
高木謙太郎(たかぎ・けんたろう)
2007年東京慈恵会医科大学卒。同大学付属柏病院、東京都立墨東病院、東京都保健医療公社豊島病院などを経て22年5月に四谷内科・内視鏡クリニック(新宿区)を開業。「胃がん、大腸がんで亡くなる人をゼロに」をミッションに、人と人のつながりを大切にした、専門的で高度な医療を提供している。
【参照】
1. 国立研究開発法人国立がん研究センター/がん情報サービス:食道がんについて https://ganjoho.jp/public/cancer/esophagus/about.html
2. Freedman ND, et.al. A prospective study of tobacco, alcohol, and the risk of esophageal and gastric cancer subtypes. Am J Epidemiol. 2007 Jun 15;165(12):1424-33.
3. Brooks PJ, et.al. The alcohol flushing response: an unrecognized risk factor for esophageal cancer from alcohol consumption. PLoS Med. 2009 Mar 24;6(3):e50. d
4. 国立がん研究センターがん対策研究所:多目的コホート研究(JPHC Study)10年間で頭頚部食道がんに罹患する確率について―飲酒とアルデヒド脱水素酵素遺伝子の多型を考慮した予測モデルの構築
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8502.html
5. 本邦におけるBarrett食道癌の疫学―現況と展望―天野 祐二,安積 貴年,坪井 優,本告 成淳,石村 典久 日本消化器病学会雑誌 112 (2), 219-231, 2015
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/112/2/112_219/_pdf/-char/ja
6. MayoClinic: Esophageal cancer https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/esophageal-cancer/diagnosis-treatment/drc-20356090
7. 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会:内視鏡で治せる食道がんはどのようなものですか?
https://www.jges.net/citizen/faq/esophagus-stomach_10
(2024/08/27 05:00)
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