治療・予防

多量飲酒による筋肉の損傷
~アルコール筋症(杏林大学医学部付属病院 竹内弘久講師)~

 多量飲酒により筋肉が障害を受ける「アルコール筋症」。あまり聞き慣れない病名だが、杏林大学医学部付属病院(東京都三鷹市)上部消化管外科の竹内弘久講師は「大量のアルコールを摂取する人には珍しくありません。消化器がんなどが併存する可能性があるので注意が必要です」と話す。

腕の付け根などが痛むアルコール筋症

腕の付け根などが痛むアルコール筋症

 ◇筋肉痛や筋力低下に

 厚生労働省は1日平均60グラム(日本酒3合に相当)以上のアルコール摂取を多量飲酒と定義している。食道がん咽頭がんなどアルコールが原因の一つと考えられる病気の治療に詳しい竹内講師は、背景に多量飲酒があると考えられる患者は多いと指摘する。「中には、アルコール筋症が併存しているケースが少なくありません」

 アルコール筋症は急性型と慢性型に大きく分けられる。飲酒後すぐに症状が表れる急性型では筋肉の破壊や壊死(えし)が起こることで強い筋肉痛や腫れが生じ、筋力の低下が見られる。また、急性型は下痢嘔吐(おうと)をきっかけに発症するケースも。

 一方、飲酒後の著しい筋肉痛や筋力低下などは見られないものの、慢性型では徐々に筋肉の萎縮が進み、筋力が低下する他、こむら返りなどが見られる。

 これらの症状の多くは、急性型、慢性型のいずれにおいても腕や脚の付け根あたりに左右対称に表れるのが特徴だ。また、筋肉が障害を受けると、筋肉に含まれるミオグロビンというタンパク質が尿に排出され、尿が茶褐色になる。

 「アルコール筋症の発症原因はまだ不明な点が多いですが、アルコールが筋繊維を破壊したり、十分な栄養を摂取していなかったりすることなどが誘因となっていると考えられます」。アルコール依存症など、長期にわたって大量にアルコールを摂取しているケースでは慢性型が多く見られるという。

 ◇併存疾患のリスクも

 治療は急性型も慢性型も断酒と栄養指導が中心だ。断酒によって筋肉痛などの症状は回復するが、5年程度経ても低下した筋力が正常レベルまで回復しないケースも。より早期での治療開始が重要になる。

 「多量飲酒者は注意が必要です。気になる症状があれば内科や総合診療科などに、アルコール依存症が心配な場合は心療内科や精神科に受診を。消化器疾患が併存するリスクもあるので、可能なら、同時に内視鏡検査も受けることをお勧めします」と竹内講師は助言している。

 アルコール量(グラム)は、飲酒量(ミリリットル)に酒のアルコール濃度を掛けた上で、0.8を掛けると算出できる。酒のアルコール濃度は度数(%)を100で割った値。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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