ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界

紅葉で高揚できる、楽しめる
~過度な不安必要なく~ 【第1回】

 秋は紅葉の季節です。イチョウやモミジなどが明るく色づいていきます。秋の京都旅行に行ったことがありますが、目に映るのは山全体を絵の具で塗り替えたような鮮やかできれいな景色。また折を見て行ってみたいものです。

 ところがどっこい。私は強めの色覚特性を持っていますので、皆さんとは違う紅葉を見ています。見ているはずです。色覚特性を持っている人は紅葉を楽しめるのでしょうか。

 皆さん初めまして。1級眼鏡作製技能士の長瀬と申します。「自身の持つ色覚特性をもっと知りたい」「眼鏡などで直せるのだろうか」という軽い好奇心から東京・六本木のバーを辞め、量販眼鏡店に入社。その後、眼科コメディカルを経て現在に至ります。色覚特性を持っていると、いろいろな仕事でいろいろな問題が起きます。バーで扱うお酒、リキュールも色とりどりです。幸いにもお酒の瓶には必ずラベルが貼ってありますので、お酒を取り違えたことはありませんでした。

 現在は吉祥寺の眼鏡店で勤務しています。眼鏡店というのは不思議なもので、視力が弱いスタッフほど患者の気持ちに寄り添える、視力の弱さや目の不具合がそのまま強みに変わる仕事です。そういった意味では、偶然ではありますが、色覚特性を生かせる良い仕事に巡り合えたと思っています。

 ◇「白黒の世界」は誤り

 さて、よく「色覚特性を持っている人は全部が白黒の世界なの?」と聞かれますが、大きな間違いです。色覚特性を持っている人はおのおの苦手な色が幾つかあるだけで、全ての色が見えないわけではありません。運動や歌や絵が苦手な人と同じように、色を識別するのがちょっと苦手というだけです。例えば、私は緑色が苦手ですが、30色のカラ-ペンセットから苦手な緑っぽい7本を抜いたとしても23本セットになるだけで、十分カラフルですよね。色覚特性を持っている人にとっても、紅葉はきれいだし、花火も美しく見えます。ゴッホの絵画は色とりどりで、お花畑にもワクワクします。

 ◇網膜に不具合

 では、もう少し詳しくお話ししていきましょう。

 目で捉えた映像や光を黒目で量とピントを調整しながら眼球の中に入れる。眼球の一番奥にあり視神経が集中している網膜でその光を受信・情報化し、脳に送る。脳が情報を読み取って解析し、初めて「見る」ことができる。これがざっくりとした目の働きです。色覚特性を持っている人は残念ながら網膜の受信装置に不具合が起きています。

 その受信装置の中を詳しく見てみましょう。

 網膜の中には光の受信装置が合計4種類あります。桿体(かんたい)細胞と3種の錐体(すいたい)細胞です。夜中など暗いときに力を発揮するのが桿体細胞。少ない光でも物が見える機能に特化していて色は認識できません。逆に、明るいときに力を発揮し、色を認識するのが錐体細胞です。3種類の細胞はおのおの得意な波長域があり、認識しやすい色が違います。光の三原色はR(赤)、G(緑)、B(青)ですが、眼科領域ではL(Long=長波長域、赤)、M(Middle=中波長域、緑)、S(Short=短波長域、青)としばしば言われます。今回問題になるのはこの3種類の錐体細胞です。

 色の認識を担当する錐体細胞は一つの眼球の中におよそ650万個存在します。赤担当、緑担当、青担当に分かれ、網膜の黄斑部に集中して分布しています。3色の錐体細胞の分布割合に多少の個人差はありますが、基本的には色の認識に差が出ない誤差の範囲でしかズレが発生しません。このため、色覚特性の無い人だと同じものを同じ色として捉えることができます。しかし、色覚特性を持っている人は分布割合が大幅に違ったり、どれか特定の細胞がサボっていたり、そもそも錐体細胞が存在していなかったりし、色の認識に差が出てしまいます。

 ◇見えにくい色・程度に差

 色覚特性には苦手な色、見えにくさの程度に差があります。個人差もありますので、少し分類分けしてみましょう。

 まず、赤色を認識するのが苦手なⅠ型(Protan)、緑色が苦手なⅡ型(Deutan)、青色が苦手なⅢ型(Tritan)の3タイプに分けます。次に程度に関し、100%ではないにしろ少しは認識できる、あるいはちょっと誤差が出る「弱度」、結構誤差が出るか全く認識できていない、または3種類の錐体が一部存在しない0%の「強度」に分類。さらに、働いている錐体細胞が何種類あるかで区別します。左の図にまとめてみました。

 国によっても差がありますが、日本人の色覚特性で最も多いのがⅡ型で75%ほど。私もここに入ります。Ⅰ型はおよそ25%。Ⅲ型は0.02%程度とほとんどいません。冒頭でもお伝えしましたが、私は強めの色覚特性で緑の錐体細胞が存在せず、または機能しておらず、赤と青の2種類の錐体細胞しか活用できていないⅡ型2色覚と言われます。今では差別につながるとの理由であまり使われなくなりましたが、私の場合は「色弱」ではなく「色盲」と言われます。

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