治療と対策 家庭の医学

 治療は急性中毒の際の解毒、依存症の場合の断酒活動、精神症状の治療からなります。また対策としては予防的な活動が重要です。

■解毒治療
 アルコールを体外に排泄(はいせつ)する治療で輸液や利尿薬を使用します。同時に、離脱症候群や身体合併症の有無を見きわめることが重要で、必要に応じてその方面の治療をします。からだの回復とともに依存症の治療である断酒活動へ導入します。

■断酒活動
 依存症の治療の中心は断酒を成功させることですが、そのためには多くの要素がからんできます。
1.本人の自覚と治療意欲
 本人の自覚はなかなか生まれにくく、「自分は依存症のレベルではない」という人が大部分です。解毒治療、身体疾患の治療、たび重なる問題行動などが治療導入のきっかけになります。
2.家族の協力
 本人の自覚がない場合でも、家族が保健所や精神保健福祉センターでの酒害相談を利用することから治療が開始される場合があります。家族には、依存症は病気であること、治療の鍵は家族がにぎっているといってもよいくらい家族の対応が大切なこと、具体的には共依存と呼ばれるような巻き込まれの状態を克服することなどが求められます。
3.断酒会、AAなど自助グループへの参加
 病気の克服の過程では専門家の助言も大切ですが、仲間との語らいや忠告も力を発揮します。断酒会は日本で生まれた自助組織で、定期的に例会が開かれ、原則的には家族とともに参加します。
 AA(Alcoholics Anonymous)はアメリカで生まれたアルコール依存症をもつ人の組織で、メンバーは匿名で参加できること、メンバーどうしが平等で役員がいないことなどがおもな特徴です。
4.薬物療法
 治療薬にはシアナミド、ジスルフィラム、アカンプロサート、ナルメフェンがあります。シアナミドとジスルフィラムは、アルコールの代謝を阻害して人工的に悪酔いの症状を起こさせ飲酒をいやにさせます。毎日自ら服用することにより断酒の意志を確かめるという効果があります。
 アカンプロサートは、依存形成に関与する脳内の神経伝達を調節して飲酒欲求を抑え、断酒の維持を助ける効果があります。
 ナルメフェンは、オピオイド受容体に作用し、少量のアルコールを摂取すればそれ以上の飲酒欲求が抑えられる薬です。断酒ではなく節酒療法に用いられます。
5.社会復帰援助活動
 たび重なる問題行動のために、仕事を失ったり職場復帰が困難になることがあります。あるいは、家庭復帰が困難になったり家庭が崩壊する場合もあります。入院治療だけでは、社会復帰は果たされにくいといえます。病院や診療所(デイケアを含む)、精神保健福祉センターや保健所(酒害相談)、自助組織、職場などが支援のためのネットワークを組むことが重要です。
 都道府県はアルコール健康障害対策推進計画を策定しています。また、依存症専門医療機関・治療拠点機関が各地で整備されつつあります。

■精神科治療
 アルコール離脱症候群アルコール精神病の場合には、しばしば精神科治療が必要になります。
 離脱症候群がみられた場合は、十分な補液と高単位のビタミン類摂取、ジアゼパムの投与、興奮の強い場合の抗精神病薬による鎮静、安全な環境での観察などがおこなわれます。
 アルコール精神病で被害妄想や幻聴などの症状がみられた場合には、抗精神病薬による薬物療法が加味されます。

■予防活動
 予防活動には、コマーシャルや自動販売機の制限、適正飲酒をすすめる啓発的な運動、スクリーニングテストを用いた依存の早期発見と早期対策など、いろいろなレベルの活動があります。
 わが国は飲酒者に甘い傾向があります。飲んではじめて本音で話せるといった対人面の特徴があり、飲酒時の少々の問題行動が許容されがちです。しかしがまんの限界をすぎると、一転してどうしようもない酒飲みだと拒絶するようになります。このような周囲の態度も問題です。依存の初期の段階で相談につなげるなどの、周囲の毅然とした態度がもっとも肝心です。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
医師を探す

他の病気について調べる