強迫性障害〔きょうはくせいしょうがい〕 家庭の医学

 強迫とは文字どおりいろいろなことがくり返しこころに強く迫り、それは不合理だとわかっていても自分ではコントロールできなくなる状態をいいます。これには、強迫観念と強迫行為の2通りのあらわれかたがあります。
 強迫観念とは、ある特定の考えや心配が思い浮かぶと、一定時間それが反復して出てくる、それを無理にうち消そうとすると不安がさらに強まる、自分ではばかばかしいことで悩んでいるという自覚がある、という状態です。
 たとえば、外出時に戸締まりをしたか、ガスは消したか、電気は消したか、火事になるのではないか、などと心配します。これだけならありそうなことですが、その考えが不合理だと思ってもうち消せないのです。そのほかに気になることがらとしては、不潔なものにさわったのではないか、運転中に人をひいたのではないか、あやまって人を傷つけてしまうのではないかといったことなどもよくみられます。強迫観念があると、次に述べる強迫行為を伴うのがふつうです。
 強迫行為とは、やはりあることが気になって特定の行動をくり返すものをいいます。その際の心理状態は、強迫観念のところで述べたとおりです。たとえば、不潔なものにさわったと思い、帰宅後は何度も手を洗うといった行為です。
 このような行為は長く、あるいはくり返すのが特徴で、時に通常の日常活動にさしつかえることもあります。また不安をぬぐうために、まわりの人に同じことを確認したり、詮索したりすることもあります。まわりの人は何度説明してもすぐに同じことを聞かれるので、うんざりしてしまうこともまれではありません。
 非常に重症になると、身動きがとれなくなって食事や排泄(はいせつ)といった基本的な行為にもさしつかえが出てくることがあります。そのような状態では、認知症や精神病レベルの障害とまちがわれることもあるほどです。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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