解離性障害、転換性障害〔かいりせいしょうがい、てんかんせいしょうがい〕 家庭の医学

 解離とは解き離すことで、こころが本来あるところから離れた状態をいいます。具体的には、自分のしたことを覚えていなかったり、自分の意思に関係なく勝手に蒸発したりなどといった状態です。耐えられないほどの苦痛を体験すると、精神は自己防衛のために本来の意識を切り離すために、このような症状が起こると考えられています。
 転換とは無意識の葛藤(解決できないこころの悩み)から生まれる不安があるとき、からだに症状が生じることによって不安から逃れられる状態をいいます。
 解離と転換は同時に出現することも多く、以前はヒステリーの症状として一括されていました。しかしこの病名は今は使用されなくなっています。

■解離性健忘
 自分に対する記憶、つらい事件に対する記憶などが失われる状態です。部分的に記憶が失われる部分健忘と、その間のことはすべて忘れる全健忘があります。自分の来歴についての記憶がすべてなくなってしまう場合を全生活史健忘といいます。

■解離性遁走(フーグ)
 家や職場から一定の期間失踪(しっそう)し、その間は自分の名前や生活を忘れ、別人になって生活する状態を解離性遁走(とんそう)といいます。しかし日常生活を送るうえで必要な学習されたことや記憶は残っているので、通常の生活には影響がありません。

■もうろう状態
 健忘や遁走では、一見ふつうに行動しているので、まわりからは異常と思われませんが、もうろう状態では意識がおぼつかず、まわりからの刺激に対して正しく反応できない状態になるのですぐに異常とわかります。恍惚としていたり、ものにつかれたような状態になったりすることもあります。

■解離性同一性障害
 2つ以上の別個の人格が交代してあらわれる状態が多重人格で、二重人格が多くみられます。診断名には「解離性同一性障害」が用いられます。それぞれの人格は独自の名前、記憶、行動様式、性格をもっており、刺激に応じて突然交代することもあります。別人格のときの行動についての記憶はさまざまですが、覚えていないことを重大視しないことが多いようです。多重人格は、幼小児期に受けた外傷体験(虐待など)に対するこころの防衛から形成されると考えられています。

■その他
 手や足がまひする(失立、失歩)、声が出なくなる(失声)などの症状が出る解離性運動障害、てんかん発作によく似た症状が出る解離性けいれん、目が見えない、聞こえない、におわないといった症状や、皮膚表面の感覚がない(手くびよりさき全部、あるいは足くびよりさき全部)といった症状が出る解離性知覚まひ、知覚脱失などがあります。
 これらの運動障害、けいれん、知覚まひ、知覚脱失は心理的な原因のために生じる症状なので、神経学的な診察や検査で異常な所見は見つかりません。また症状としては重症ですが、本人はあまり深刻でないことがあります。それぞれ解離性という名称がついていますが、それは大なり小なり解離症状が合併していることが多いからです。また最近では、運動障害などの大げさな症状は減り、疼痛(とうつう)、めまい、吐き気などの軽微な症状がこれに代わって目立つようになってきています。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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