身体表現性障害〔しんたいひょうげんせいしょうがい〕 家庭の医学

 こころの悩みや葛藤がからだの症状としてあらわれる状態をいいます。つまり、なにかの病気を思わせるような症状があるが、いろいろ検査をしても症状に対応するような異常が見つからず、症状の背景には心理的な原因があると想定されるような状態です。
 この場合、症状はあたかも重大な病気があるかのように自覚され、病院を何度も受診したりします。医師からからだの病気ではない(あるいは症状を説明できるような診察・検査結果は得られない)と説明されるといったんは納得します。しかし、症状が頑固に続くので、しばらくすると「やはり病気ではないか」「前の医師は誤診したのではないか」「もっとくわしく診てもらおう」「もっと専門的な病院に行こう」などと考え再受診、再々受診に至ります。また代替医療の利用も多いようです。
 よくある症状には消化器症状(腹痛、嘔吐〈おうと〉、下痢など)、循環器症状(息切れ、胸痛など)、泌尿器症状(排尿困難、生殖器や周囲の不快感など)、皮膚症状などがあります。身体表現性障害は、症状の出かたやとらえかたによっていくつかに分類できます。

■心気障害
 頑固に持続する身体症状があり、「がんではないか」「脳腫瘍ではないか」といった心配に至ります。ちょっとした症状に敏感になります。
 次項の身体化障害が治療を強く求めるのに対し、心気障害では診断にこだわるといった特徴があります。

■身体化障害
 心気障害とよく似ていますが、診断へのこだわりがあまりなく、とにかく症状をなくしたいという希望を強くもっているのが特徴です。

■自律神経機能不全
 動悸(どうき)、発汗、口渇、排尿困難などの自律神経症状がおもに出現します。

■疼痛障害
 長期にわたって強い痛みを自覚します。頭痛、舌痛、胸痛、腹痛、腰痛などがよくみられます。実際に身体疾患や外傷のために疼痛(とうつう)があるが、その程度が検査所見にくらべて強すぎるのが特徴です。多くの場合、仕事や家事にさしつかえるようになり、重症になると入院治療を受けることもあります。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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