ネフローゼ症候群〔ねふろーぜしょうこうぐん〕 家庭の医学

 ネフローゼ症候群を簡単にいえば、たんぱく尿が大量に出ている腎臓病です。腎臓病の多くにたんぱく尿がみとめられますが、そのなかでも1日3.5g以上の比較的大量のたんぱく尿(健康人においては最大でも1日のたんぱく尿は0.3g以下、通常の腎臓病では1日1g前後)がみられる場合は、どのような腎臓病であってもネフローゼ症候群と呼ばれます。
 なぜ「症候群」と名づけられたかというと、たんぱく尿が大量に出る結果、さまざまな異常が起こるからです。まず、たんぱく尿が大量に排出されてしまう結果、体内のアルブミン(血中のおもなたんぱく質)が少なくなります。症状として、浮腫(むくみ)が出現します。下肢に出ることが多いですが、それに限りません。時として全身に及ぶことがあり、さらには肺にも水がたまってくるために呼吸困難や労作時の息切れを起こすこともあります。
 また、血清アルブミンの低下に伴って肝臓での脂質合成がさかんになり、コレステロール値が通常の倍以上になることも珍しくありません。血中のコレステロール値は一般の人では200mg/dL以下がほとんどですが、ネフローゼ症候群の人では時に500mg/dL以上になることもあります。
 ネフローゼ症候群はすべての腎臓病で起こりうるとしましたが、大きく2つに分けられています。腎臓そのものに主たる原因があり、腎臓以外の臓器はほとんど障害を受けていない一次性(原発性)ネフローゼ症候群と、腎臓以外の臓器あるいは腎臓をはじめとするいくつかの臓器に障害がみられる二次性ネフローゼ症候群です。

■一次性(原発性)ネフローゼ症候群
 一次性(原発性)ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体にさまざまな病変が生じることにより起こります。糸球体に起こってくる病変によって、①微小変化型ネフローゼ症候群、②巣状分節性糸球体硬化症、③膜性腎症、④増殖性糸球体腎炎に分けられています。
□微小変化型ネフローゼ症候群
 小学校高学年くらいより20歳前後までに発症が多いとされていますが、幼児でもまた高齢者でもみられる病気です。
 発症すると、数日で急に全身にむくみが出現することが多いのですが、ゆっくりと出てくることもあります。この腎臓病の場合、血尿が出てくることは比較的まれで、たんぱく尿が陽性なだけがほとんどです。循環している血液量が急激に減少する(脱水、下痢など)と腎機能が低下し、尿がほとんど出なくなることもありますが、一般には病気が軽快するとともにほとんど回復します。
 微小変化型ネフローゼ症候群では治療薬である副腎皮質ステロイド薬が効果を発揮し、ほとんどの場合、たんぱく尿も消え完治します。問題は、30~70%程度で再発がみられ、特に副腎皮質ステロイド薬の服用量が減ったり、中止したりすると再発をくり返すことがあります。
□巣状分節性糸球体硬化症
 巣状分節性糸球体硬化症はすべての年代にわたってみられ、移植腎で再発をくり返すことがあります。
 発症は微小変化型ネフローゼ症候群に似ています。しばしば微小変化型ネフローゼ症候群として治療されていることもあり、注意が必要です。
 以前は比較的副腎皮質ステロイド薬が効きにくいネフローゼ症候群と考えられていましたが、最近では副腎皮質ステロイド薬の長期服用や免疫抑制薬を追加するなどして、いくつかの治療法を組み合わせて治療がおこなわれます。
□膜性腎症
 微小変化型ネフローゼ症候群についでよくみられる一次性ネフローゼ症候群に、膜性腎症があります。この腎臓病は微小変化型ネフローゼ症候群と異なり中年以降によくみられます。発症のしかたも比較的ゆっくりしており、健康診断などのたんぱく尿で見つけられることもあります。また、たんぱく尿と同時に血尿をみとめることも比較的多くみられます。
 微小変化型ネフローゼ症候群と異なり、副腎皮質ステロイド薬の効果にバラツキがありますが、7割以上で治療の効果が得られています。また、長期的には自然によくなることも約30%でみられ、治療成績について正確な評価が得られていないのが現状です。
 ただし、膜性腎症ではしばしば悪性腫瘍が隠れていたり、感染症(特に肝炎)などが原因となっている場合がありますので注意してください。
□増殖性糸球体腎炎
 増殖性糸球体腎炎にはメサンギウム増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎が含まれていますが、ここでは膜性増殖性糸球体腎炎についてみていきます。
 この腎臓病は小児や若い人に多くみられ、発症も比較的ゆっくりしています。たんぱく尿に加えて、血尿や尿中にさまざまな脂肪成分がみられます。
 膜性増殖性糸球体腎炎の早い時期には副腎皮質ステロイド薬は効果がありますが、ネフローゼ症候群のなかで慢性腎不全にもっともなりやすいので十分な注意が必要とされます。

[治療]
 すべてのネフローゼ症候群に必要な治療は食事療法です。
 ネフローゼ症候群の食事療法の基本は減塩につきるといっても過言ではありません。むくみをとるには減塩がいちばんです。むくみはおもに体液と電解質で形成されていますので、まず電解質であるナトリウム(=食塩)の制限によりかなり軽快します。また、食塩1gで100~150mLの給水が必要となるので、もし十分な食塩制限がなされれば水分摂取も自然と少なくなり、これもむくみの解消に有効です。
 たんぱく質の積極的摂取は必要ありません。かつては、たんぱく質をたくさんとることがネフローゼ症候群では必要といわれましたが、尿中に漏れ出てしまったたんぱく質を補うことにはなりません。
 身体活動については、過激な運動をおこなわないのは当然ですが、夕方に出てきたむくみが次の日の朝には消失している程度の活動にとどめておくほうが安全です。

【参照】子どもの病気:ネフローゼ症候群

(執筆・監修:医療法人財団みさき会 たむら記念病院 院長 鈴木 洋通)
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