IgA腎症〔あいじーえーじんしょう〕 家庭の医学

 IgA腎症は、わが国ではもっとも多い「腎炎」という範疇(はんちゅう)に属する病気です。IgAというガンマグロブリン(免疫を担っているたんぱく質の一種)が腎臓の糸球体の中に沈着し、糸球体が炎症を起こしている病態です。
 IgA腎症の早期は無症状のため、健康診断で発見されることが多くなります。尿潜血反応が陽性で、たんぱく尿も陽性であればIgA腎症が疑われます。たんぱく尿が30mg/dL(+)の場合にはほとんど問題がありませんが、100mg/dL(2+)以上の場合には腎生検を受けることが必要です。
 発症時期の多くは、小児期(小学校低学年)から青年期(高校生)ですが、あらゆる年代で発症します(子どもの病気:IgA腎症)。
 また、感冒様症状、特に咽頭炎、扁桃腺(へんとうせん)炎などにかかったあと数週間以内に突然尿が赤くなる、いわゆる肉眼的血尿の場合、IgA腎症の可能性があります。このような肉眼的血尿は自然になくなることが多いのですが、一度は腎臓専門医を受診しておいたほうが安心です。
 検査を受ける頻度ですが、学童期なら春休み、夏休み、冬休みにそれぞれ1回ずつの検尿だけでよいと思います。勤めているのであれば年1回の定期健診に加えて、もう1回の検尿のみの検査がすすめられます。このような経過観察中にたんぱく尿が出現するか否か、また血圧が上昇してくるか否かが、IgA腎症の腎障害が進行していくときのめやすになります。さらに血清クレアチニン値の検査も、年に1回ないし2回は受けてください。
 ふだんの生活では、①食生活、②活動、③薬の服用について十分な注意が必要です。
食事に関しては減塩を心掛けてください。どの程度の減塩が効果があるのかは確立されていませんが、1日あたり食塩の摂取量を6g以下にしておく必要があります。
 通常の生活をおこなうことは可能ですが、基本的には過激なスポーツやからだに負担をかけるようなこと(長時間の肉体労働など)は避けてください。また、かぜ薬、筋肉痛や腰痛、あるいは関節痛などのときによく使われている薬のなかに腎障害を起こすものがありますので、市販されている薬をむやみに服用しないでください。
 いっぽう、IgA腎症の治療が必要になるのは、①たんぱく尿の出現、②血圧の上昇、③血清クレアチニン値の上昇――のいずれかを認めた場合です。
 たんぱく尿は、1日1g以上が続くようであれば、治療を開始します。
 次に血圧ですが、腎臓は血圧を調節する重要な器官なので、腎臓になんらかの障害が生じてくるとしばしば血圧が上昇してきます。家庭で測る血圧で上(収縮期血圧)が120mmHg以上、あるいは下(拡張期血圧)が75mmHg以上のときには、少し高くなっていると考えてください。外来での血圧測定では腎臓病のある場合、収縮期血圧で130mmHg以上あるいは拡張期血圧で80mmHg以上が高血圧です。
 血清クレアチニン値の上昇は、値そのものとしては微々たるものとしても(たとえば0.60mg/dLから0.70mg/dL)、腎障害の程度は大きく進んでいます。腎臓病はゆっくりと進行することが多いのですが、なるべく早期に、わずかな変化を見逃さず治療を開始することが重要です。

[治療]
 IgA腎症そのものの治療法は、現時点では確立していません。
 たとえば、魚油がIgA腎症に効果があるという報告もありますが、日本人で長期間にわたって調べた成績は少ないので、今後検討されていくと思います。
 また扁桃(腺)を切除し、さらに副腎皮質ステロイド薬を使用するとほとんど完治する可能性が高く、現在はわが国ではほぼ確立された治療法となっています。
 さらにたんぱく尿が1日1g以上の場合は、積極的に副腎皮質ステロイド薬を使うことでたんぱく尿が消失し、IgA腎症がよくなる人もいます。
 小児期から学童期でたんぱく尿が1日1g以上ある場合、腎生検で得られた腎組織の検査で炎症を意味する細胞の増殖などのある場合、あるいは血清クレアチニン値が上昇しかけているような場合では、副腎皮質ステロイド薬と抗血小板薬の併用が有効なことが多いようです。
 これらに加え、レニン-アンジオテンシン系抑制薬といわれるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)にたんぱく尿を減少させる効果があるため、積極的に用いられつつあり、長期的にもIgA腎症の進行を抑制するとされています。

(執筆・監修:医療法人財団みさき会 たむら記念病院 院長 鈴木 洋通)
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