慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)〔まんせいへいそくせいはいしっかん(はいきしゅ、まんせいきかんしえん)〕 家庭の医学

 慢性閉塞性肺疾患は、英語名(chronic obstructive pulmonary disease)の頭文字をとってCOPDとも呼ばれる病気で、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。

 この病気になると気管支が細くなり吸った空気を強く吐き出すことができなくなり、からだを動かしたときに息苦しさを感じます。病気が進んだ人では、勢いよく空気を吐き出せないためにろうそくの火を吹き消すことができなくなるほどです。この病気にかかる患者の数は増加するいっぽうで、わが国での調査結果をみると40歳以上で約500万人ともいわれるほど多くの患者がいると推定されています。
 しかし、実際に病気が診断されているのは10人に1人くらいで、ほとんどの人は正しく診断されず、息苦しいのは高齢のためと誤解されていることがしばしばみられます。
 このような病気をもたらすもとの病気に慢性気管支炎や肺気腫があります。かつてはCOPDの病状をもたらす病気として慢性気管支炎や肺気腫があると説明されていましたが、現在ではCOPDの病気を説明する際にはこれらの病名ははぶいています。
 しかし、実際には慢性気管支炎や肺気腫といった病名は一般的に使用されています。
 1.慢性気管支炎は、喀(かく)たん症状が年に3カ月以上あり、それが2年以上連続してみとめられることが病気の特徴となっています。そして、この病状がほかの肺疾患や心疾患によって起こっているのではないことが条件で、胸部X線検査をして肺や心臓の病気がないことを確かめる必要があります。
 2.肺気腫は、ぶどうの房状になった肺胞と呼ばれる領域に起こる病気です。肺胞では吸った空気から酸素を体内に取り込み、体内で産生された二酸化炭素が吐き出されます(ガス交換)。肺気腫では、この肺胞が破壊されて消失したり、弾力性を失って伸びきった状態になるために肺胞表面積が減り、ガス交換機能が低下します。
 さらに、肺の中に分布する細い気管支は、それを拡張させる作用を有する肺胞が破壊・消失するため細くなり、内腔(ないくう)は狭窄(きょうさく)して空気の流れがわるくなります。


[原因]
 COPDの患者の90%は喫煙者です。また、喫煙者の15~20%の人がCOPDになるといわれています。したがって、たばこ病ともいわれるように、長期にわたる喫煙習慣がこの病気をもたらします。

[症状]
 COPDのおもな症状は、からだを動かしたときに生ずる呼吸困難とたんを伴うせきです。病気が進行するにしたがい呼吸困難が増強したり、体内の酸素が低下して(低酸素血症)、動悸(どうき)が出現したりします。

[診断]
 COPDを診断するには、まず喫煙習慣がある人で、からだを動かしたときに呼吸困難がみられたり、せきやたん症状のある人を対象として、スパイロメトリーという呼吸機能検査をします。
 その検査で気管支拡張薬を吸入したあとの1秒率(1秒量/肺活量)が70%未満であればCOPDと診断します。その際に、胸部X線検査などで肺結核の後遺症やじん肺などの陰影がみられ、呼吸機能がそれらの病変のために低下していると考えられる場合にはCOPDと診断されません。また、COPD患者の多くは胸部CT検査をすると肺気腫病変が観察されます。
 COPDは1秒量の%予測値(%FEV1)の程度で軽度の気流閉塞、中等度の気流閉塞、高度の気流閉塞、きわめて高度の気流閉塞の4段階に分類されます。


[治療]
 COPDの治療法としては、①禁煙、②薬物治療、③リハビリテーション、④栄養、⑤外科治療、⑥在宅治療、⑦予防があり、重症度や症状に応じて治療を調整します(上図「●安定期COPDの重症度に応じた管理」を参照)。いずれにしても、禁煙が基本で、症状を緩和するために気管支拡張薬の使用や呼吸リハビリテーションの実践などがすすめられます。
 生命の延長効果があるのは、禁煙と薬物治療、最重症となった場合の酸素療法です。近年では、呼吸リハビリテーションも延命効果があることが示唆されています。感染予防としては、インフルエンザワクチンの予防接種がすすめられます。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 児玉 裕三)
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