慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)〔まんせいへいそくせいはいしっかん(はいきしゅ、まんせいきかんしえん)〕 家庭の医学

 慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。たばこ煙に代表される有害なガスや粒子を慢性的に吸入することによって、空気の通り道である気道やガス交換をおこなう肺胞が長期にわたってゆっくりと破壊されて生じる疾患です。病気が進行すると、空気の流れがわるくなって酸素の取り込みや二酸化炭素の排出ができなくなり、日常生活に大きな影響を及ぼすようになります。COPDは、加齢とともに罹患(りかん)率が上昇し、通常40 歳以上の成人で診断され、多くは60 歳以降に診断されます。2008年の患者調査では、国内の患者数は約22万人とされています。ただし、あくまで病院で診断された人の数であり、未診断の人を含めれば、約500万人がCOPDであると推測されています。そのため、国民健康づくり運動を進めるうえでの基本方針「健康日本21」において、COPDは、がん・循環器疾患・糖尿病とならび、対策を必要とする主要な生活習慣病と位置づけられています。

[原因]
 いちばんの原因は、なんといっても喫煙です。喫煙習慣が病気の発症・進行の最大の危険因子であり、COPDは「たばこ病」「肺の生活習慣病」などとも呼ばれます。喫煙者すべてがCOPDに罹患するわけではありませんが、COPD患者の約90%は喫煙者です。喫煙してもCOPDを発症しない人もいますが、その理由についてはいまだ解明されていません。

[症状]
 初期は無症状ですが、病気が進行するとせきやたん、からだを動かした際の息切れなどの症状があらわれます。同年代の人とくらべて、歩く速度が遅くなったり、階段をのぼる際に息苦しさを感じたりすることがありますが、これらの症状は加齢や体力低下の影響と間違われることもあります。病気が重症になると、「陸でおぼれるような息苦しさ」と表現されるほど、つらい症状を経験することもあります。

[診断]
 長期間の喫煙歴がある、なんらかの粉じんに曝露(ばくろ)歴がある、などがあり、長びくせき・たんがある、あるいはからだを動かしたときときに息切れがある、などの症状がある人はCOPDを疑って医療機関でスパイロメトリー(呼吸機能検査)を受けることが推奨されます。スパイロメトリーは、息を吸う力や息を吐き出す力を計測する検査で、同年代の健康なヒトの肺と比較した「肺年齢」もわかります。深く息を吸い込んだあと、全力で早く息を吐き出した最初の1秒間(FEV1と表記されます)に、努力性肺活量(FVCと表記されます)の70%以上を吐き切ることができれば正常、70%未満は閉塞性換気障害(息を吐き出す力が低下した状況)が疑われます。さらに診察や画像検査などをおこない、閉塞性換気障害を起こすほかの病気が否定できれば、COPDと診断されます。またCOPD患者では、肺胞がこわれることによって肺の容積が大きくなり、胸部X線検査では肺の「過膨張所見」(肺が増大し、心臓が縦長になっているなど)、胸部CT検査では肺胞の「破壊所見」(正常の肺にくらべて、より黒く抜けた肺気腫病変がみられるなど)が検出されることが多く、診断の補助となります。

[治療]
 COPDの治療法としては、①禁煙、②薬物治療、③リハビリテーション、④栄養指導、⑤酸素療法、⑥換気補助療法、⑦外科治療、⑧予防があり、重症度や症状に応じて治療を調整します。治療の基本は、なんといっても“禁煙”であり、薬物治療や呼吸リハビリテーションなどの非薬物療法の効果を最大限に引き出してくれます。また、COPDは感染をきっかけに増悪(ぞうあく)といって、息切れが強くなる、せきやたんがふえる、といった症状悪化をきたすことがあり、手洗いやうがい、ワクチン予防接種といった感染対策もとても大切になります。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 小池 建吾)
医師を探す

他の病気について調べる