腎機能と発がんとの関連については複数の報告があるが、結果に一貫性がなく不明点が多い。名古屋大学大学院腎臓内科学の倉沢史門氏らは、腎機能と発がん・がん死亡との関連および発がんの危険因子を検討するコホート研究を実施し、腎機能低下例では喫煙による発がんリスクが高いことなどをInt J Cancer2023年5月9日オンライン版)に報告した。

5万5,000例を腎機能で層別化して検討

 透析療法が必要な慢性腎不全患者では、慢性炎症や酸化ストレスの影響で免疫能低下、低栄養などを来しやすく、発がんリスクが高いとされる。保存期の慢性腎臓病患者においても腎機能低下が発がんリスクに関連するという報告がある。また、腎機能低下例では標準用量の抗がん薬が使用できず、有害事象も来しやすいためがん関連死亡率が高い。加えて、腫瘍または薬物療法の影響により腎機能が低下しやすいことも知られている。これらの腎と腫瘍の関連については、新たな学問領域として「Onco-Nephrology」が提唱されるなど注目度が高まっている(関連記事「注目されるOnco-Nephrology」)。

 腎機能と発がんとの関連については、推算糸球体濾過量(eGFR)低値で発がんリスクが上昇するという報告がある一方、両者に関連はないとの報告もある。また、eGFR高値例で発がんリスクが上昇するという報告もあるが、日本人データは限られていた。さらに、腎機能が発がんの危険因子(喫煙、飲酒、食習慣、肥満など)に及ぼす影響についても不明だった。そこで、倉沢氏らは日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)の追跡データを用い、日本人における腎機能と発がん・がん死亡との関連および発がんに関する危険因子について検討した。

 対象は2005〜14年にJ-MICC Studyに参加した症例のうち、登録時にがんの罹患歴がなく腎機能データを有し、かつ追跡データを有する5万5,242例(年齢中央値57歳、女性55%)。登録時の腎機能により、高度低下群(eGFR 10〜29mL/分/1.73m2)、中等度低下群(同30〜44mL/分/1.73m2)、軽度低下群(同45〜59mL/分/1.73m2)、正常群(同60〜74mL/分/1.73m2)、軽度高値群(同75〜89mL/分/1.73m2)、高値群(同90mL/分/1.73m2以上)の6群に分け、発がん(全がん、直腸がん、胃がん、腎がん)およびがん死亡リスクを比較した。また、発がんに関する危険因子を腎機能保持群(eGFR 60mL/分/1.73m2以上)と低下群(同60mL/分/1.73m2未満)に分けて検証した。

eGFRの中等度低値と高値は発がんリスクに関連

 中央値で9.3年の追跡期間中に4,278例(7.7%)ががんを発症した。腎機能別に見ると、正常群に対して中等度低下群で発がんリスクが有意に高かった〔調整ハザード比(aHR)1.36、95%CI 1.00〜1.84、〕。高度低下群でも発がんリスクが高い傾向が見られたが有意差はなかった(同1.12、0.55〜2.26)。また、高値の2群でも発がんリスクが有意に上昇しており、eGFRと発がんにU字形の関係が認められた(軽度高値群:同1.09、1.01〜1.17、高値群:同1.18、1.07〜1.29)。

図1. 腎機能別に見た発がんリスク

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 がん種別に見ると、胃がんおよび腎がんは腎機能低下によりリスクが上昇する傾向が認められた。

 追跡期間中に約1,600例(約3%)の死亡が認められ、半数はがんによるものだった。正常群と比べ、eGFR低値の3群ではがんによる死亡リスクとの関連は認められなかったが、高値の2群ではがんによる死亡リスクが有意に高かった。この理由について、倉沢氏らは、①衰弱により筋肉量が少ない例ではeGFR高値を呈する傾向にある、②eGFR高値例では正確な腎機能評価が難しく適切な抗がん薬の投与量の設定が困難、③eGFR高値例では排泄の亢進により抗がん薬の効果が得られにくい―を挙げている。

腎機能低下例に対する禁煙指導が必要

 発がんの危険因子については、腎機能低下群で喫煙および家族歴がより強い発がんリスクに関連していた。腎機能が喫煙による発がんリスクに及ぼす影響は図2の通りで、eGFRが低下するほどリスクが上昇した。この点について、倉沢氏らは「腎機能低下例ではたばこに含まれる発がん物質が排泄されず体内に蓄積するためではないか」と推察している。

図. 腎機能が喫煙による発がんリスクに及ぼす影響

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(図1、2とも名古屋大学プレスリリースを基に編集部作成)

 以上の結果を踏まえ、同氏は「発がんリスクの高い集団に対する積極的なスクリーニング、腎機能低下例に対する禁煙指導の実施が求められる」と結論している。

(編集部)