こちら診察室 知ってる?総合診療科

第7回 漢方医学の活用は「世界の潮流」
日本が誇る実用的な治療 ~総合診療医の出番です~

 「漢方医学」というと「中国の医療」と誤解されることがありますが、本当は古代中国医学を源流として日本に伝わり、少しずつ日本化して現代に受け継がれた伝統医学です。その特徴はおおむね五つに集約されると考えられます。 

漢方薬を調合する(イメージ)

漢方薬を調合する(イメージ)

 ◇オーダーメード 

 一つ目は、日本固有の伝統医学であるということです。現在の中国にある「中医学」と日本の漢方医学はかなり異なります。 

 二つ目は、西洋医学のように化学成分を抽出・合成した薬ではなく、植物などを利用した生薬を組み合わせてさまざまな効能の薬を考案し、治療に活用していることです。 

 三つ目には「証」という漢方独自の見立て「診断学」に基づき、患者一人一人の症状に応じて細かく漢方薬を調整していくことです。この点は近年提唱されているオーダーメード治療に例えられるでしょう。 

 ◇「心身一如」 

 四つ目は患者の日常生活レベルの改善すなわち「生活の質」(QOL)を重視していることです。これは、近代的な検査技術がない時代に発達した医学のため、原因の追及ではなく、症状への対処が治療のすべてだったからでしょう。また、西洋医学のように心と身を分けて考えず、一体として扱う「心身一如」の考え方も持っています。 

 五つ目は、現代医学と伝統医療を組み合わせた統合医療に向いた医療体系であることです。中国などアジア諸国にもそれぞれの歴史や風土に根ざした伝統医療がありますが、それらは近代医学とは別の医療として、専門の資格になっています。 

 その中で、日本だけが伝統医療と現代医学を単一の医師免許に基づき、一人の医師が診断・治療に活用できます。意外と知られていませんが、この優れた医療システムを生かさない手はありません。 

総合診療科+漢方薬は患者の身体的、経済的負荷と、薬の副作用の懸念を軽減させる

総合診療科+漢方薬は患者の身体的、経済的負荷と、薬の副作用の懸念を軽減させる

 ◇診断に至らない症例 

 漢方医学を適用しやすい症状や病態はどのようなものでしょうか。例えば、「冷え症」「虚弱体質による体調不良や体力低下」「老化に伴うさまざまな症状」「アレルギー性疾患の症状軽減や体質改善」などです。 

 このほかにも、(1)生活習慣病など慢性疾患の症状(2)西洋医薬品の副作用(3)現代の標準治療で十分改善しない諸症状の改善・軽減-も挙げられます。これらは総合診療科でもしばしば遭遇するものでしょう。 

 大学病院などの総合診療科は、医学的診断が確定していない、さまざまな症状を抱える患者を受け入れ、診療にあたっています。その第一義的な役割は、適切な検査などを重ねて正確な診断を付け、必要に応じて臓器や疾患ごとに分化している各診療科につなげる、いわゆる「振り分け」です。 

 しかし実際には、適切と思われる検査をしても診断に至らない症例は少なからずあります。中にはもともとの性格傾向や病状への不安の増大も相まって、前にも紹介した医学的な説明が難しい「MUS(medically unexplained symptpms)」と呼ばれる症状で治療に難渋することもあります。

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