心筋梗塞(MI)後の再発および死亡の予防において、β遮断薬の長期投与は確立された治療法だが、心不全や左心室収縮機能不全(LVSD)のないMI患者に、MI後1年以上にわたる長期投与が与える影響は不明だった。スウェーデン・Uppsala UniversityのDivan Ishak氏らは、MI後に1年以上β遮断薬を処方されている患者と非処方の患者約4万3,000例で心血管転帰を比較。多変量解析の結果、心不全やLVSDのない患者におけるMI後1年超のβ遮断薬は心血管転帰を改善しなかったことをHeart2023年5月2日オンライン版)に報告した。

大規模・長期の追跡が可能なコホート研究で検討

 心不全やLVSDがないMI患者へのβ遮断薬の長期投与に関する、現行のエビデンスは、侵襲的な再灌流療法や抗血栓療法がルーチン化される前のランダム化比較試験(RCT)や、比較的小規模・短期で対象が限定的な研究に基づいている。また、予防投与の便益に関して確固たるエビデンスを得るには長期の追跡が必要であり、従来のRCTの枠組みで検討することは困難である。

 そこでIshak氏らは、スウェーデンの全国冠疾患登録から4万6,000例超のデータを抽出し、追跡期間の中央値4.5年におよぶ大規模コホート研究を実施した。対象は2005~16年にMIで入院した成人患者とし、MI入院から1年後をindex dateとして、1年後もβ遮断薬を処方されている群と非処方の群に分けて追跡を開始。index dateまでに心不全またはLVSDを発症した患者は解析から除外した。

 主要評価項目は全死亡、MI再発、予定外の血行再建術施行、心不全による入院の複合とし、傾向スコアを用いた逆確率重み付け法(IPTW)を適用後、Fine-Greyモデルを用いたCox回帰分析を行った。

サブグループ解析でも群間差なし

 重み付け後、4万3,618例(年齢中央値64歳、女性25.5%)をintention-to-treat(ITT)解析に組み入れた。このうち3万4,253例(78.5%)がindex dateにおいてβ遮断薬を処方され、9,365例(21.5%)が非処方だった。患者背景は全体的に両群で同等だったが、非処方群では今回の入院前のMI、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、冠動脈バイパス術(CABG)の既往を有する割合がいずれも処方群の約2倍と多かった。一方、処方群ではST上昇型MI、入院中の血行再建施行およびスタチン処方の割合が多かった。

 中央値4.5年の追跡期間における主要評価項目の到達割合は、β遮断薬非処方群の2,028例(21.7%)に対し、処方群では6,475例(18.9%)と少なかった〔100人・年当たり4.9件 vs. 3.8件、ハザード比(HR)0.76、95%CI0.73~0.80〕。しかし、多変量解析では両群の差は消失した(同 0.99、0.93~1.04)。追跡期間中のβ遮断薬中止例や治療薬変更例を除外した解析でも結果は同様だった(同0.98、0.90~1.06)。

 また、事前に規定されたサブグループ(性、高血圧糖尿病心房細動/粗動、MI既往、MIのタイプ、入院中のPCI施行)解析でも同様の結果が得られた。

 以上を踏まえ、Ishak氏らは「心不全やLVSDのないMI患者においてMI後1年超のβ遮断薬による治療は心血管転帰の改善と関連しないことが示唆された」と結論している。

(小路浩史)