がん細胞を用いるがん細胞ワクチン療法は、自家がん細胞を得ることができれば理論上ほぼ全ての患者に適用できる治療法となりうる。しかし、これまでほとんどの例で有効性が認められず、ごく一部の有効例でも効果を発揮するメカニズムは不明だった。北海道大学大学院医学院の梶原ナビール氏らは、有効ながん細胞ワクチンではがん細胞内で自然免疫系遺伝子の発現量が増加していることを発見し、高発現している遺伝子をワクチン効果のないがん細胞株に導入したところ治療効果が得られるようになったとOncoimmunology2023; 12: 2213132)に報告した。

ワクチン効果を持つ細胞株と持たない細胞株を比較解析

 梶原氏らは高いワクチン効果を示すマウスのがん細胞が複数存在する点に着目し、効果を示さないがん細胞株と比較解析することで効果発現メカニズムの解明に取り組んだ。

 研究の鍵となったのは、高いワクチン効果を持つマウス乳がん細胞株4T1-Sapporo (4T1-S)の発見だ。4T1-Sには親株である4T1-ATCC (4T1-A)が存在するが、4T1-Aを用いた実験ではほとんど効果が示されなかった。そこで同氏らはがん細胞の差異を検討した。4T1-Sの他にワクチン効果を示すがん細胞株として、 MCA-205(マウス線維肉腫)、CT26(マウス大腸がん)、ワクチン効果を示さないがん細胞株として、3LL(マウス肺がん)、B16(マウス悪性黒色腫)が同定されたため、これらのがん細胞も含めて解析した。

 実験では、X線照射したがん細胞をワクチンとしてマウスの皮下に接種し、2週間後には生きたがん細胞を接種。腫瘍の発生やマウスの生存率を観察することでワクチンの有効性を評価した()。

図.ワクチン実験のイメージ

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(北海道大学プレスリリースより)

 各がん細胞をX線照射した後に遺伝子発現を解析したところ、自然免疫に関与する複数の遺伝子の発現量が増加していた。そこで高発現していた遺伝子3種(Irf7Ifi44Usp18)をワクチン効果のないがん細胞株である4T1-AやCT26に導入した上で同様の実験を行うと、ワクチン効果が得られることが判明した。

B細胞がワクチン効果に重要な役割

 次にワクチン効果発現のメカニズムを明らかにする目的で、ワクチン接種後のマウスリンパ節細胞に対し1細胞RNAシークエンシング解析を実施した。ワクチン効果のある4T1-Sと、効果のない4T1-Aを接種したマウスリンパ節細胞を比較した結果、4T1-Sを接種したマウスリンパ節ではインターフェロン(IFN)-γ産生B細胞が増加していた。

 そこで、IFN-γ産生B細胞の役割を検討するため、マウスに抗B細胞に対する抗体を投与しB細胞を除去した後、4T1-S細胞ワクチンを投与した。その結果、ワクチン投与2週間後に全マウスで腫瘍が生じた。以上のことから、B細胞がワクチン効果を発揮する上で重要な役割を担っている可能性が示唆された。

 梶原氏らは「ワクチン効果が見込めないタイプのがん細胞であっても、Irf7Ifi44Usp18 といった遺伝子を導入した上でワクチンを接種すれば、がんの再発予防が期待できる可能性がある。また、ワクチンの効果発現にはB細胞が重要であることも示唆された。今後は実用化に向け、ヒトのがん細胞株を用いた実験や、患者の検体を用いた研究を慎重に重ねる必要がある」としている。

(中原将隆)