和歌山県立医科大学法医学講座准教授の石田裕子氏らは、アセトアミノフェンによる急性肝障害に対する好中球エラスターゼ阻害薬シベレスタットの有効性についてマウスを用いて検討。シベレスタット投与がアセトアミノフェン肝障害に対して治療効果を示したことをInt J Mol Sci2023; 24: 7845)に報告した。

生存率を有意に改善

 アセトアミノフェンは解熱・鎮痛を目的としたさまざまな一般用医薬品(解熱鎮痛薬、総合感冒薬)の主成分として含まれる。容易に入手可能であることから、自殺目的の大量服薬や小児の誤食事故が多く、急性薬物中毒の原因物質として最も頻度が高い薬物の1つである。2020年に日本中毒センターに寄せられた相談件数は142件と、解熱鎮痛消炎薬585件の中で最も多かった。

 シベレスタットは全身性炎症反応症候群(SIRS)に伴う急性肺障害の改善を適応としており、蛋白質分解酵素の1つで炎症反応を増幅させる好中球エラスターゼを選択的に阻害して急性呼吸不全の症状を改善する。

 アセトアミノフェンによる急性肝障害の早期には、好中球増加や白血球浸潤が認められることから、シベレスタットの好中球エラスターゼ阻害を介した炎症反応の調整が有効な可能性がある。

 そこで石田氏らは今回、マウスにアセトアミノフェンを過剰投与(750mg/kg)して急性肝障害を惹起し、アセトアミノフェン投与30分後にシベレスタットまたはプラセボを投与して治療効果を検討した。

 その結果、プラセボ群では著明な好中球エラスターゼの増加が認められたが、シベレスタット群ではプラセボ群と比べて有意に低値だった(6時間後:P<0.01、24時間後:P<0.05)。生存率については、プラセボ群では半数(12匹中6匹)が死亡したのに対し、シベレスタット群では全12匹が生存し、有意差が認められた(P=0.0054、)。

図. アセトアミノフェン過剰投与後の生存率

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Int J Mol Sci 2023; 24: 7845)

 プラセボ群ではアセトアミノフェン投与6時間後に血清ALT値の上昇を認め、10時間後にピークに達したが、シベレスタット群ではプラセボ群と比べて有意に低値だった(6、10、24時間後:P<0.01、48時間後:P<0.05)。血清AST値についても同様だった(2時間後:P<0.01、6、10、24時間後:P<0.05)。

 また、プラセボ群では肝臓に好中球の浸潤を認めたが、シベレスタット群ではプラセボ群と比べて好中球数が有意に減少していた(6時間後:P<0.05、24時間後:P<0.01)。シベレスタット群では炎症性サイトカインやケモカインの発現も減弱しており、さらに肝障害の増悪因子とされる一酸化窒素の産生もプラセボ群と比べて減少していた(24時間後:P<0.01)。これらの結果から、シベレスタットは肝臓への好中球浸潤および一酸化窒素の産生抑制を介し、アセトアミノフェンによる肝障害を改善することが示唆された。

 今回の結果を踏まえ、同氏らは「今後の研究により、さまざまな炎症性疾患の病態形成における好中球エラスターゼの役割が明らかになれば、シベレスタットの臨床応用に結び付く可能性がある」と展望している。

(編集部)