心不全の治療に用いられるACE阻害薬などのレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬は、ヘモグロビン値を低下させて貧血を引き起こす可能性が指摘されている。一方、ネプリライシン阻害薬は造血を促進することが実験で示されている。そのため、両薬を併用すればヘモグロビン値の低下を軽減・予防できる可能性がある。英・University of GlasgowのJames P. Curtain氏らは、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)の患者を対象にアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリルバルサルタンとACE阻害薬エナラプリルを比較検討したPARADIGM-HF試験のデータを解析。その結果、サクビトリルバルサルタン群ではエナラプリル群と比べてヘモグロビン値の低下幅が小さく、貧血の新規発症率が30%低下したと J Am Coll Cardiol HF2023; 11: 749-759)に発表した。

貧血の有無を問わずARNIで死亡・入院リスク低下

 解析対象は、PARADIGM-HF試験に参加したHFrEF患者のうち、ベースラインのヘモグロビン値が記録されていた8,239例。世界保健機関(WHO)の貧血の基準(ヘモグロビン値が女性で120g/L未満、男性で130g/L未満)に基づき、1,677例(20.4%)がベースラインで貧血を有していた。
 主要評価項目(心血管死と心不全による入院の複合)の発生率は、ベースラインで貧血を有さない患者と比べて有する患者で有意に高かった〔調整後ハザード比(HR)1.25、95%CI 1.12~1.40、P<0.001〕。

 エナラプリル群と比べて、サクビトリルバルサルタン群における主要評価項目の発生率は、ベースラインで貧血を有する患者(HR 0.84、95%CI 0.71~1.00)、有さない患者(同0.78、0.71~0.87)のいずれでも低かった(ベースラインにおける貧血と治療薬との交互作用のP=0.478)。

 投与開始後12カ月時におけるヘモグロビン値のベースラインからの低下幅は、エナラプリル群の2.3g/L(95%CI 2.0~2.6g/L)に対し、サクビトリルバルサルタン群で1.5g/L(同1.2~1.7g/L)と有意に小さかった(平均差0.8g/L、95%CI 0.5~1.2g/L、P<0.001)。

 また、投与開始後12カ月時における貧血の新規発症率は、エナラプリル群(15.6%)に比べてサクビトリルバルサルタン群(11.4%)で有意に低かった(オッズ比0.70、95%CI 0.60~0.81、P<0.001)。

 これらの結果は、LVEFの保たれた心不全(HFpEF)の患者を対象にサクビトリルバルサルタンとバルサルタン単独を比較したPARAGON-HF試験のデータを用いた感度分析でも同様だった。

サクビトリル+バルサルタンで鉄利用率が改善

 さらに、無症候性左室機能不全の患者を対象にサクビトリルバルサルタンとバルサルタン単独を比較したRECOVER-LV試験の解析を行った。ランダム化後6カ月時点で、サクビトリルバルサルタン群ではバルサルタン単独群と比べて、血清鉄濃度(幾何平均比0.88、95%CI 0.78~0.99、P=0.04)およびヘプシジン濃度(同0.73、0.56~0.95、P=0.02)の有意な低下、フェリチン濃度の強い低下傾向(同0.85、0.71~1.01、P=0.07)が認められ、鉄利用率が向上していることが示された。

 以上の結果から、Curtain氏らは「サクビトリルバルサルタン群ではエナラプリル群と比べて、ベースラインでの貧血の有無にかかわらず心血管死と心不全による入院の複合リスクが有意に低く、ヘモグロビン値の低下幅が小さく貧血の新規発症率も低かった」と結論している。

(太田敦子)