高血圧患者の約半数はガイドラインが推奨する降圧目標を達成しておらず、その原因の1つは服薬アドヒアランス不良である。米・Brigham and Women's HospitalのAkshay S. Desai氏らは、長時間作用型RNA干渉薬という新クラスの高血圧治療薬zilebesiranの安全性と治療用量を検討する第Ⅰ相試験を実施。200mg以上の単回皮下投与により、血清アンジオテンシノーゲン濃度と24時間自由行動下血圧(ABP)が用量依存的に低下し、その効果は24週時まで維持されたこと、治療関連の有害事象(AE)は軽度の注射部位反応のみであったことなどをN Engl J Med2023; 389: 228-238)に報告した。

肝臓でのアンジオテンシノーゲン合成を阻害

 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬は、代償性のアンジオテンシン再活性化やアルドステロンエスケープを引き起こす可能性がある。これを克服するために複数のRAAS阻害薬を併用すれば、腎RAASの過剰抑制に起因すると考えられる高カリウム血症や腎機能障害を誘発するリスクが高まる。

 これに対しzilebesiranは、肝臓でのアンジオテンシノーゲン合成を特異的に阻害し、単回投与で24時間安定した降圧が数カ月持続するよう設計された新クラスの薬剤である。

 第I相試験は、当初パートA~Eの5パートで構成されていたが、プロトコル変更によりパートCが実施されず、パートDは現在進行中で、今回は試験を終了したパートA、B、Eの結果が報告された。

治療用量、高塩分食下での効果、イルベサルタン併用効果などを検討

 対象は18~65歳の軽~中等症〔収縮期血圧(SBP)130~165mmHg〕高血圧患者で、英国の4施設にて3パート合計107例(平均年齢53.5歳、男性62%)を組み入れた。24時間ABP測定による平均SBP±標準偏差は140.3±9.0mmHgだった。

 パートAでは、zilebesiran群(10、25、50、100、200、400、800mgのいずれかの単回皮下投与:計56例)とプラセボ群(28例)に二重盲検下でランダムに割り付け24週間追跡。

 パートBでは、zilebesiran 800mg単回皮下投与群(8例)とプラセボ群(4例)に二重盲検下でランダムに割り付け、低塩分食または高塩分食条件下でzilebesiran 800mg投与による血圧への影響を評価した。

 パートEでは、非盲検で全例(16例:パートAのプラセボ群からの切り替え含む)にzilebesiran 800mgを単回投与し、6週後もABP測定でSBPが120mmHg以上の患者にイルベサルタン(IBS)1日1回300mgを2週間投与した。

 評価項目は、安全性、薬物動態学的および薬力学的特性、24時間ABP測定によるベースラインからの血圧変化などとした。

高塩分食による血圧への悪影響が減弱、IBS併用で降圧増強

 5%以上の患者で発現したAEは、頭痛、注射部位反応、上気道感染だった。治療関連のAEは、軽度かつ一過性の注射部位反応(5例)のみだった。低血圧、高カリウム血症、腎機能低下による医療介入はなかった。

 zilebesiranの投与量と血清アンジオテンシノーゲン濃度との間には用量依存性の負の相関が認められた(8週時でr=-0.56、95%CI -0.69~-0.39)。パートAでは、zilebesiran 200mg以上の投与で、8週時までにSBPが10mmHg超、拡張期血圧が5mmHg超低下。これらの変化は昼夜を通じて安定しており、24週時も持続していた。

 パートBでは、zilebesiran投与により、高塩分食による血圧への悪影響が減弱された。また、パートEでは、IBSの併用により降圧効果が増強された。

 Desai氏らは、「今回の治験の対象は、若齢かつステージ1~2の高血圧に限定されており、まだ結果を一般化することはできない」とした上で、「200mg以上のzilebesiran単回皮下投与は、血清アンジオテンシノーゲン濃度と24時間ABPを用量依存的に低下させ、その効果は24週時も持続していた。AEとして、軽度の注射部位反応が観察された」と結論している。

 現在、zilebesiran治療の可能性を検討する2件の第Ⅱ相試験が進行中である。

(小路浩史)