高齢化の進展に伴い、多疾患を有し多剤併用に陥りやすい高齢者の在宅療養は今後増加する見込みである。高齢者の薬物有害事象リスクは高く、在宅療養においては薬物治療の有効性とともに安全性に十分に考慮する必要がある。医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構研究部副部長の浜田将太氏らは、匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、訪問診療を受けている75歳以上の高齢者に処方された薬剤について2015年と2019年で比較し、課題の傾向をJ Gen Intern Med2023年8月24日オンライン版)に報告した。(関連記事「高齢者の不適切薬処方、世界で増加傾向

複数のPIMで処方減少せず

 高齢者が住み慣れた場所で老後を過ごしたいという希望に応えるために医療資源を確保する上では、薬物療法をはじめとした在宅医療の質の向上が求められる。ポリファーマシーや薬物有害事象リスクの高い薬剤(PIM)処方を解消し、在宅医療における薬物療法の安全性を担保するため、診療ガイドラインや減薬に関する診療報酬などが導入された。こうした状況を受けて、浜田氏らは在宅療養高齢者における薬剤処方の変化について横断研究を実施した。

 対象となったのは2015年10月(499,850例)と2019年10月(657,051例)に在宅医療を受けた75歳以上の高齢者。一部の対象者(140,399例)の両年での重複を考慮してランダム化ロジスティック回帰分析によって統計学的調整を行った上で、調査年と処方との関連を評価した。各年10月の初回訪問診療日から30日間で処方された薬剤について、薬剤種類数、ポリファーマシー(常用薬剤5種類以上の処方と定義)の有無、主要処方薬のカテゴリー、日本のガイドラインに従ったPIM処方の有無を主に内服薬を対象とし、レセプト上から頓服薬とされるものなどは除外して評価した。

 処方された薬剤の数は2015年から2019年まで横ばいであった(中央値6種類、四分位範囲4~9種類)。ポリファーマシー率は両年とも70.0%で有意差はなかった(P=0.93)。処方頻度の高いPIMのうちベンゾジアゼピン系睡眠薬/抗不安薬および非ベンゾジアゼピン系薬が17.6%減少したが(調整後オッズ比 0.52)、利尿薬と抗精神病薬の処方に減少は見られなかった。

 抗認知症薬では、コリンエステラーゼ阻害薬から認知症の行動・心理症状(BPSD)への効果が期待されるメマンチンに切り替える動きが見られたものの、同じくBPSDに有効だがPIMである抗精神病薬の処方は減少しておらず、在宅医療での認知症患者のBPSDへの対応が難しいことが示唆された。

 さらに、胃酸分泌抑制薬のうちPIMであるH2受容体拮抗薬は35.3%減少し(調整後オッズ比 0.45)、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の処方が増加していた。PPIはPIMとされてはいないものの、腎疾患感染症骨折等のリスクと関連しているという報告があり、処方の増加による新たな課題が生じている可能性が示されている。

 以上のように、調査では良好な変化も認められたが、継続する課題および新たな課題も確認された。「在宅医療における薬物療法の最適化に引き続き注意を払う必要がある」と浜田氏らは指摘している。

服部美咲