ドイツ・Saarland UniversityのLaura Ziegler氏らは「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの2回目接種は、1回目と同じ側の腕に打った方がより強力な免疫応答が得られた」とする前向き観察研究の結果をeBioMedicine(2023年7月31日オンライン版)に報告した。

同側接種と対側接種をワクチン効果の観点から比較

 上腕三角筋に2回接種するワクチンの2回目を1回目と同じ側に打つか反対側に打つかについては、接種部位の疼痛などへの配慮から、利き手でない側に2回続けて打つ人が多く、SARS-CoV-2ワクチン接種の際にも同様な提言がなされている。しかし、2回目を同側あるいは対側に接種することによる免疫応答の違いを検討した報告は少ない。

 Ziegler氏らは、2021年3月1日~9月10日にSaarland University Medical Centerまたはドイツ・Robert Bosch社でファイザー製BNT162b2ワクチンを2回接種した303例を登録。一部の患者を除き2回目の接種を同側/対側のいずれに打つかはランダムに割り付ける前向き観察研究を実施した。

 2回目接種の12~22日後に採血し、ヌクレオカプシド蛋白質(N蛋白質)特異的IgG、SARS-CoV-2スパイク蛋白質(S蛋白質)特異的IgG、S蛋白質特異的IgG avidity(抗原との結合力)、中和抗体活性をELISAなどで測定。さらにサブグループ解析として、S蛋白質特異的CD4陽性/CD8陽性T細胞をフローサイメトリーで解析した。

同側接種群で中和抗体活性とCD8陽性T細胞数が高値

 登録時は全例がSARS-CoV-2感染歴なしとされたが、同側接種群の2例でN蛋白質特異的IgG陽性が判明したため除外し、解析対象は同側接種群145例(平均年齢38.5±15歳、男性80例)、対側接種群156例(同40.4±15.3歳、91例)だった。

 試験の結果、S蛋白質特異的IgGの中央値に両群で差は認められなかった〔同側接種群4,590BAU/mL(四分位範囲3,438BAU/mL)、対側接種群4,002BAU/mL(同3,524BAU/mL)、P=0.106〕。
IgG avidityについても差はなかったが(P=0.056)、中和抗体活性は対側接種群で有意に低かった(P=0.024)。

 同様に、S蛋白質特異的CD8陽性T細胞数の中央値は対側接種群で有意に低く(P=0.004)、検出限界を超えた者の割合は対側接種群で43.0%(34/79例)、同側接種群では67.2%(43/64例)だった(P=0.004)。

 S蛋白質特異的CD4陽性T細胞数は両群で同程度だったが、対側接種群ではCTLA-4発現強度が有意に高かった(P=0.011)。

パンデミック中の特殊環境が研究の強み

 以上の結果を踏まえ、Ziegler氏らは「同側接種、対側接種のいずれも強い免疫応答(IgG抗体、IgG avidity)が誘導されたが、初回投与(プライミング)時と同じ流入リンパ節を通過する投与経路を選ぶことで、2回目のブースター効果がより増強される可能性がある。同側接種群で中和抗体活性およびS蛋白質特異的CD8陽性T細胞数が高値だったことは、感染や重症化の予防において意味がある。今回の結果は、ワクチンの効果という意味でも、対側接種よりも同側接種が優れている可能性を示唆するものである」と結論。

 研究の強みとしては、サンプル数の多さに加え「極度の行動制限とマスク着用義務が課されていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で行われた試験であり、他の感染症が交絡因子として入り込む余地はほとんどなかった」と付言している。

木本 治