涙腺IgG4関連疾患のIgG4血液検査による経過観察 令和3年4月22日
岡山大学
◆発表のポイント
・岡山大学病院眼科ではぶどう膜炎(眼炎症)・眼腫瘍の専門外来を設けて、眼科の中でもまれな疾患である炎症や腫瘍の診断や治療をいろいろな診療科と連携して行っています。
・涙腺腫大をきたす炎症性疾患としてIgG4関連疾患があり、2012年にその診断基準が公表されて末梢血IgG4値を測定することが保険診療で可能になりました。
・過去10年、涙腺腫大をきたしIgG4関連疾患と診断された8人の患者で末梢血IgG4を測定し経過を診た結果を内科、病理診断科、放射線科と共同でまとめました。
岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野の松尾俊彦教授は、岡山大学病院眼科でぶどう膜炎(眼の炎症疾患)や眼腫瘍の専門外来を行っています。その中で、2009~2020年に受診し、涙腺腫大をきたし「IgG4関連疾患」と診断された8人の経過を調査しました。経過中、多くの患者で末梢血のIgG4値が上昇しますが極端に上昇しない限りは全身的に病変を来すことはないのですが、高度に上昇してきた場合は全身のリンパ腫を考える必要があることがわかりました。
本研究成果は令和3年3月18日、日本リンパ網内系学会の機関誌「Journal of Clinical and Experimental Hematopathology」に掲載されました。目の炎症や腫瘍はまれな疾患で患者数も少ない「希少疾患」であり、今回の長期経過に関する知見は、今後の治療方針の決定などに役立つと考えられます。
松尾教授
◆研究者からのひとこと
岡山大学病院眼科ではぶどう膜炎(眼炎症)・眼腫瘍や小児眼科の専門外来を長年担当しています。ぶどう膜炎や眼腫瘍は頻度が低いまれな疾患「希少疾患」なので、どのような疾患なのか、どのような経過をたどるのか、どのような治療がよいのかという疾患単位や標準治療が確立していないのが現状です。いろいろな診療科と連携する大学病院の専門外来という立場を活かして多くの患者様を診療する機会に恵まれたことでさまざまなことが分かってきました。今後の患者様方の治療に活かしていきたいと思います。
■発表内容
<現状>
IgG4関連疾患は、全身のいろいろな臓器に炎症細胞の浸潤や線維化を来す炎症性疾患です。その病理学的な特徴として、免疫グロブリンの中のIgGのサブクラスであるIgG4を作る形質細胞やリンパ球が病変の病理組織の中に多くみられます。日本人を初め東洋人で多くみられる疾患で、日本でその疾患概念が提唱され、IgG4関連疾患と名付けられました。2012年にはIgG4関連疾患の診断基準が公表され、それに伴って末梢血のIgG4値を測定する血液検査が保険診療の中でできるようになりました。
今回の報告では、涙腺腫大でIgG4関連疾患と診断された8人の患者について、その診断、治療、経過、特に、末梢血IgG4値の変動を調査しました。その結果、血液検査でのIgG4値は経過中上昇していきますが、極端に上昇しない限りは新たな全身の病変を来すことはないことが分かりました。しかし、中には血液検査でのIgG4値が極端に上昇することもまれにあり、その場合はリンパ腫をきたしていることがわかりました。このように外来診療での経過観察で血液検査としてIgG4値を測定して診ていくことには意義があることがわかりました。
<社会的な意義>
岡山大学病院の使命のひとつとして、まれな疾患の治療を行い、経過を診ていくことが挙げられます。眼科の疾患として多いのは白内障や緑内障、加齢黄斑変性、網膜剥離などですが、ぶどう膜炎などの炎症疾患や眼腫瘍は頻度が低く、標準的な治療が定まっていない場合が多くあります。今回のIgG4関連疾患はまれな疾患ですが、本研究成果のように比較的多くの患者さんの治療経過を振り返ることによって、今後、標準的な治療の確立や新規治療の創出に向かって基盤となる情報を提供できると考えます。眼の炎症や腫瘍は、全身の他の臓器と関連することも多く、内科、小児科、放射線科、病理診断科、皮膚科、脳神経外科、耳鼻咽喉科など多くの診療科と連携して診療を行っています。
■論文情報等
<今回の発表論文>
論文名: Follow-up with serum IgG4-monitoring in 8 patients with IgG4-related disease diagnosed by a lacrimal gland mass.
掲載誌: Journal of Clinical and Experimental Hematopathology 2021;61(3):10-21.
著者: Toshihiko Matsuo, Takehiro Tanaka, Yasuhiro Sato, Hitomi Kataoka, Mayu Uka, Daisuke Ennishi, Tomofumi Yano
DOI: https://doi.org/10.3960/jslrt.20048
U R L: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslrt/61/1/61_20048/_article/-char/ja
<IgG4関連疾患に関するこれまでの発表論文>
論文名: Immunoglobulin G4 (IgG4)-positive or -negative ocular adnexal benign lymphoid lesions in relation to systemic involvement.
掲載誌: Journal of Clinical and Experimental Hematopathology 2010;50(2):129-142.
著者: Toshihiko Matsuo, Kouichi Ichimura, Yasuharu Sato, Yasushi Tanimoto, Katsuyuki Kiura, Sou Kanazawa, Toshiaki Okada, Tadashi Yoshino
DOI: https://doi.org/10.3960/jslrt.50.129
U R L: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslrt/50/2/50_2_129/_article
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域(医)
(岡山大学病院眼科)
教授 松尾俊彦
(電話番号)086-235-7297(眼科医局)
(2021/04/26 11:08)