オーストラリア・Austin HealthのBrendan J. Nolan氏らは、トランスジェンダーおよび性的マイノリティーの成人64例を対象にテストステロン療法が性別違和やうつ病に及ぼす影響を評価する非盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、無治療群と比べて早期のテストステロン療法群は、対象の性別違和、うつ病および自殺傾向を有意に改善したとJAMA Netw Open(2023; 6: e2331919)に報告した。

性的マイノリティーの専門クリニックで登録

 トランスジェンダーや性的マイノリティーでは、性別違和に伴う心理的苦痛を経験する頻度が高く、オーストラリアのオンライン調査では73%がうつ病の既往を、67%が不安症の既往を有すると報告されている(LGBT Health 2021; 8: 42-49)。観察研究では、テストステロン療法を含む性別適合ホルモン療法(GAHT)による性別違和およびうつ病の改善が報告されているが、RCTのデータは不足している。

 そこでNolan氏らは、 2021年11月1日〜22年7月22日に、オーストラリア・メルボルンのトランスジェンダーおよび性的マイノリティーのケアを専門とする内分泌外来およびプライマリケアクリニックで参加者を募集。それらの集団に対するテストステロン療法が性別違和、うつ病、自殺に及ぼす影響を評価する3カ月のRCTを実施した。

 対象は、テストステロン療法の開始を希望する70歳以下のトランスジェンダーおよび性的マイノリティーの成人64例〔年齢中央値22.5歳、四分位範囲(IQR)20~27歳〕。初回来院から1週間以内にテストステロン療法を開始する介入群と3カ月後に開始する標準治療群に1:1でランダムに割り付けた。テストステロン療法は、0週目と6週目に①ウンデカン酸テストステロン(日本未承認)1,000mgの筋肉内投与、②経皮テストステロン1%ゲル(12.5mg/回)の1日4回投与― のいずれかとした。

 除外基準はテストステロンの禁忌とし、アンドロゲン依存性悪性腫瘍、既知のがん、活性物質または賦形剤に対する過敏症、多血症、肝腫瘍、コントロール不能な高血圧や睡眠時無呼吸、重度の腎機能障害、6カ月以内の心イベントまたは心不全(ニューヨーク心臓協会新機能分類Ⅱ度超)、凝固異常などが含まれた。

 主要評価項目は性別違和とし、Gender Preoccupation and Stability Questionnaire(GPSQ)を用いて評価した。副次評価項目はPatient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)で評価した抑うつ症状、Suicidal Ideation Attributes Scale (SIDAS)で評価した自殺念慮とした。アンケートはベースライン時と3カ月時に実施し、評価可能な例を解析対象とした。

標準治療群に比べ介入群ではGPSQが7.2点、PHQ-9は5.6点改善

 解析の結果、ベースライン時の全体の平均GPSQスコアは45.1±6.4点で、全例が有意なレベルの性別違和(GPSQスコア28超)を報告した。ベースライン時の平均PHQ-9スコアは、介入群で15.2±4.7点、標準治療群で14.1±6.0点、平均SIDASスコアはそれぞれ12.0±8.5点、11.6±10.0点だった。

  標準治療群と比べ、介入群では3か月時のGPSQスコアが有意に低かった(43.4点 vs. 38.0点、平均差-7.2点、95%CI -6.1~-8.3点、P<0.001)。同様に、PHQ-9スコアは介入群で有意に減少し(13.4点 vs. 8.6点、同-5.6点、-4.4~-6.8、P<0.001)と、SIDASスコアも介入群で有意低かった(11.8点 vs. 5.6点、同-6.5点、-4.8~-8.2点、P<0.001)。

 PHQ-9の項目9(2週間以内の自傷・自殺念慮)で評価した自殺傾向が改善した割合は、標準治療群の1例(5%)に対し、介入群では11例(52%)でと有意に多かった(P=0.002)。

 有害事象は、注射部位の疼痛/不快感が7例、テストステロン筋肉内投与後24時間以内に一過性の頭痛が1例に発生した。多血症の報告はなかった。

 今回の結果について、Nolan氏らは「テストステロン療法を希望するトランスジェンダーおよび性的マイノリティーの成人において、早期の開始が性別違和、うつ病、自殺の改善に有効であることを支持するものである」と結論している。

今手麻衣