子宮頸がんやその前がん病変は、発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染により発症するとされる。ワクチンによるHPV16/18型の持続感染予防効果は90%超と極めて高いものの、浸潤性子宮頸がん(ICC)の予防効果を検証した報告はなかった。昭和大学産婦人科学講座講師の小貫麻美子氏らは、大規模がん登録データおよび長期疫学研究MINTスタディのデータを解析。その結果、2011年以降に20歳代女性でのみICC罹患率が低下しているなど、ICC予防に対するワクチンの効果を日本で初めて確認したとCanser Sci2023年9月8日オンライン版)に報告した(関連記事「9価HPVワクチン、効果と適正接種を考察」)。

積極的勧奨再開も接種率回復せず

 ICCの約60%はHPV16型、約10%はHPV18型が発症因子とされる。日本では2010年11月に12~16歳の女児を対象としたHPVワクチン接種プログラムが開始され、2013年4月には定期接種化されたが、副反応疑いの報告が相次いだため2013年6月以降の9年間は積極的勧奨が差し控えられた。昨年(2022年)4月に積極的勧奨が再開されたものの、接種率はいまだ回復していない。また、2013年までにワクチンを接種した高接種世代(1994~99年生まれ)を中心に前がん病変に対するワクチンの予防効果が報告されているが、ICCに対する予防効果の報告はなかった。

ワクチン高接種世代でHPV16/18型陽性がんが減少

 小貫氏らは、HPVワクチンによるICC予防効果を検証するため、まず全国がん登録データおよび日本産科婦人科学会(JSOG)の腫瘍登録データを用いて、日本人若年女性におけるICC新規発症率の動向を解析した。

 全国がん登録データを見ると、高接種世代に相当する20~29歳の日本人女性における人口10万人当たりのICC罹患率は、1975~2011年に有意に増加〔年間変化率(APC)5.9、95%CI 5.6~6.1、P<0.001〕していたのに対し、2011~20年には10万人当たり8.0から2.8へと減少に転じた(同-13.5、-11.9~-14.5、P<0.001)。高齢層では減少が認められず、他の年齢層との比較においても20~29歳の女性で有意な減少が示された(P<0.0001)。

 JSOGの腫瘍登録データ(11万6,124例)からは、20~29歳の女性におけるICCの年間診断数は2011~20年に256例から135例へと半減しているのに対し、その他の年齢層では横ばいまたは微減にとどまることが示された(P<0.0001)。

 次に、この結果ががん検診など他の要因によるものではなく、ワクチン特異的な予防効果であるかどうかを評価するため、長期疫学研究MINTスタディのデータを用いて検証した。ICCおよび前がん病変と診断された20~39歳の女性1,414例を高接種群(20~29歳)と低接種群(30~39歳)に分け、HPV16/18型陽性率の経年変化を検討した。

 ICC患者のワクチン接種率は、全体で1.6%、低接種群で1.5%、高接種群で9.1%だった。線形回帰モデルを用いて2011~22年のHPV16/18型陽性率の経年変化を検討した結果、低接種群では0.6%/年の上昇傾向、高接種群では-1.2%/年の低下傾向が見られたが有意差はなかった(P=0.26)。ただし、2017~22年のデータに限定すると、高接種群の陽性率は90.5%から64.7%に有意な低下が認められた(P=0.05)。

 これらの結果を踏まえ、同氏らは「近年漸増傾向にあるとされるICCが、ワクチン接種率の高い20歳代でのみ減少傾向に転じていた。これは、HPVワクチンによるICC予防効果を日本で初めて示したものだ」と結論。「HPVワクチンの接種を促進し、子宮頸がん予防に寄与する研究成果である」と付言している。

服部美咲