新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のmRNAワクチン接種後に獲得免疫は減弱すると考えられるが、その程度や時期は不明である。ワクチン追加接種の必要性や時期を検討するため、熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターの天野将之氏らは、ファイザー製オミクロン株BA.4-5対応型二価ワクチン(以下、二価ワクチン)を接種した医療従事者の血清を用いて、オミクロン株(BA.5、BQ.1.1、XBB、XBB.1.5)に対する中和活性の経時的変化を検討。その結果をJ Infect2023年9月1日オンライン版)に報告した。

中和活性はワクチン接種後速やかに低下

 対象は2022年11月~23年6月にSARS-CoV-2の一価ワクチンを最大4回接種後に、二価ワクチンを接種した医療従事者149例。うち79例が二価ワクチンを2回接種していた。

 ワクチン接種後の獲得免疫の経時的変化を確認するため、二価ワクチン1回目接種の1週前、2週後、12週後、24週後、2回目接種の2週後に採血し、SARS-CoV-2に対する中和活性を評価した。

 解析は、SARS-CoV-2未感染群(91例)、二価ワクチン1回目接種前の2022年4~11月に感染した接種前感染群(不顕性感染例を含む、33例)、1回目接種後の2022年12月~23年2月に感染した接種後感染群(同25例)の3群に分けて行った。

 まずBA.5および培養細胞を用いた実験を行い、二価ワクチン1回目接種前と2週後で血清の中和活性を比較したところ、未感染群では4.1倍に上昇した(幾何平均NT50値 103→424)。しかし、12週後および24週後にはそれぞれ70.0%、82.5%の低下を認めた。接種前感染群では接種2週後に4.0倍に上昇し(同617→2,468)、未感染群の5.9倍と高値を示したが、12週後および24週後には72.3%、86.4%の低下を認めた。一方、接種後感染群(接種後平均33日で感染)では、接種2週後のBA.5に対する中和活性は未感染群より35.1%低かった(幾何平均NT50値275)が、12週後には2.1倍へと上昇し(同631)、24週後に45.6%の低下を示した(図1)。

図1.1回目接種後の未感染群、接種前・後感染群のBA.5に対する中和活性

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高リスク例ではXBB.1.5対応一価ワクチン接種を

 次に、二価ワクチン1回目接種の半年後に2回目を接種した79例について、BA.5に加えBQ.1.1、XBB、XBB.1.5に対する中和活性を評価した。

 接種後感染群11例では、1回目接種2週後と比べ2回目接種2週後の血清中和活性は、いずれの変異株とも上昇しており(BA.5、BQ.1.1、XBB、XBB.1.5に対する幾何平均NT50値はそれぞれ3,362、612、404、468)、予防効果が示唆された。また接種前感染群14例では、経時的な低下が見られたBA.5に対する中和活性が、2回目接種2週後には1回目接種2週後のレベルまで回復していた(幾何平均NT50値2,900)。BQ.1.1、XBB、XBB.1.5に対する幾何平均NT50値はそれぞれ444、343、315と、1回目接種後のピーク値と同程度だったことから、接種前感染者群でも2回の接種により変異株に対する中和活性が十分に回復すると考えられた。

 一方、未感染群では2回目接種により、BA.5に対する中和活性は1回目接種後のピーク値レベルまで回復した(幾何平均NT50値449)が、BQ.1.1やXBB、XBB.1.5株に対してはいずれも低値にとどまった(同100未満、図2)。

図2.1、2回目二回目接種後の未感染群、接種前・後感染群の各種変異株に対する中和活性

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(図1、2ともに熊本大学プレスリリースより)

 以上の結果から、天野氏らは「未感染者では二価ワクチンを2回接種しても、 BQ.1.1やXBB系統の変異株に対する十分な予防効果が得られない可能性が高い」と指摘。「重症化リスクを有する人は個々の感染予防策の継続とともに、XBB.1.5対応一価ワクチンを接種することが望ましい」と付言している。

服部美咲