「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

高齢者との会食には3回目接種か事前検査を
~大型連休中の感染予防~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第43回】

 新型コロナウイルス流行下で3回目のゴールデンウイーク(大型連休)を迎えます。過去2年は緊急事態宣言が発令されており、この期間を家で過ごす人が多かったと思います。今年は制限がほとんど無い中での大型連休になり、旅行や会食を計画している人も多いことでしょう。しかし、国内では第6波の流行がまだ続いており、感染者数が増加傾向の地域もあります。この期間をいかに過ごすかで、第6波が収束するか、再燃するかが決まってくるのです。今回は大型連休中の感染予防についてまとめてみました。

ゴールデンウイーク最終日にもかかわらず、閑散としていたJR東京駅の新幹線ホーム=2020年05月06日

ゴールデンウイーク最終日にもかかわらず、閑散としていたJR東京駅の新幹線ホーム=2020年05月06日

 ◇3回目の大型連休

 2020年の大型連休は第1回の緊急事態宣言の最中で、多くの人が家で過ごしていました。例年なら大にぎわいの町から人影がほとんどいなくなったのです。まして旅行をするなどは思いもよらぬことだったと思います。21年の大型連休もアルファ株の流行が拡大していたため、3回目の緊急事態宣言が発令されました。20年のように家に閉じこもる人は多くありませんでしたが、会食場所などで集団感染がいくつも発生しました。

 そして、今年は新型コロナの流行が発生して3回目の大型連休になります。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など、行政的な措置は全く発令されておらず、今年こそはと、旅行や友人との会食などを計画している人も多いことでしょう。

 しかし、現在も第6波の流行は続いており、4月下旬の時点で新規感染者数は1日に4万~5万人になります。この数は、21年5月1日時点(5992人)の約10倍、20年5月1日時点(282人)に比べると100倍以上になります。今年はワクチン接種を受けている人が多く、流行しているオミクロン株も重症化しにくいなどの違いはありますが、新型コロナ流行期間中の大型連休であることは過去2年と同じなのです。旅行や会食を制限する必要はありませんが、十分に感染予防を取って行動しなければなりません。

 ◇国内感染状況の地域差

 こうした感染予防を取るためには、自分の住んでいる地域や旅先の感染状況を知ることが大切です。第6波の流行では、国内でも地域により感染状況に差があります。たとえば、東京や大阪などの大都市圏では感染者数が緩やかに減少していますが、北海道や沖縄、そして今まで感染者数が少なかった地方で再増加が見られています。

 なぜ、感染者数に地域差があるのでしょうか。これにはいくつかの要因があり、一つは集団免疫が関係するとされています。大都市圏では今までに感染した人が多く、ワクチン接種とともに強い免疫が成立していますが、感染者の少なかった地方では集団免疫が弱く、再増加が起きているというものです。

 もう一つは対策の違いです。大都市圏では今までの対策の積み重ねで、行政や住民が効率的な対策を取っていますが、感染者の少なかった地方では今までの経験が乏しく、効率的な対策が取れずに再増加しているとも考えられます。これとは別に、地方では濃厚接触者の追跡調査が丁寧に行われているため、感染者数が多くなるという見方もあります。

 なお、北海道や沖縄で再増加しているのは別の要因があるかもしれません。たとえば、沖縄ではワクチンの再接種率が他の自治体より低いので、その影響が出ている可能性があります。また、北海道や沖縄は人気の観光地であるため、日本中から人が集まりやすいことも再増加の要因として考えられます。

 いずれにしても、現在、国内の流行状況には地域差があるため、まずは、連休中に行動する地域の状況を厚生労働省や自治体のホームページなどで調べておきましょう。

 ◇今までの予防経験を活用

 先にも述べましたが、今年の大型連休では過去2年に比べて感染者数が桁違いに多くなっています。それでも種々の制限が出されていないのは、オミクロン株の重症化が今までのウイルスよりも少ないことや、多くの人がワクチン接種を受けているためです。

 ただし、ワクチン接種については3回目の接種率がまだ国民の5割弱で、特に10代から20代の若い人で低くなっています。大型連休中、活発に行動するのは若い人が多いことを考えると、特にこの世代の人は、3回目の接種をできるだけ連休前に受けるようにしましょう。

 もう一つ、今回の連休中に制限が出されていない理由があります。それは、私たちが今までの経験で、自発的に新型コロナの感染予防を行えるようになっているからです。マスクの着用、手指の消毒、密な接触回避、体調不良時の外出制限などは誰もが知っている予防方法です。これを大型連休中は少し強めに行ってください。

 なぜ強めに予防対策を行うかですが、連休中は日頃会わない人と会食をしたり、遠方に旅行したりする機会が多くなるためです。

写真はイメージ=AFP時事

写真はイメージ=AFP時事

 ◇会食と旅行の注意点

 会食はマスクを外して会話をするため、感染リスクの高い行動になります。まず、食事をする店は自治体などによる予防対策の認証店を選ぶようにしましょう。人数は少人数で、時間も2時間以内を心掛けてください。また、アルコールを飲むと大声になるので、特に注意してください。高齢者などハイリスクの人と食事をするときは、双方がワクチンの3回目接種を受けておくようにしましょう。事前に新型コロナの検査を受け、自分が感染していないことを確認できれば、さらに安心です。

 旅行では、感染者が移動することにより感染を拡大させることがあります。このため、ワクチンの3回目接種か新型コロナ検査を旅行前に受けておくことを推奨します。また、体調が悪いときは旅行をキャンセルすることも大切です。旅先への移動中や滞在中は、常に感染予防に心掛けてください。特に食事の場面は要注意です。さらに、旅行から帰ってきた後に体調不良があれば、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

 ◇大型連休が決める今後の流行状況

 過去2年と違い、今年の大型連休では国民の皆さんが、ある程度、会食や旅行を楽しむことができます。これはワクチンの接種率が高くなっていることや、感染予防の知識が広く普及していることによります。

 ただ、この期間に感染者が増えると、第6の流行はさらに長期化していくことになるでしょう。一方、この期間の流行を抑えることができれば、その先には第6の収束が見えてきます。今後の新型コロナの流行は、私たちの大型連休の過ごし方にかかっているのです。(了)


濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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