こちら診察室 アレルギー性鼻炎の治療最前線

進む患者の低年齢化
~アレルギーマーチ防止で早期対策が必要~ (後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授)【第4回】

 アレルギー疾患は低年齢化が進んでおり、アレルギー性鼻炎もその例外ではない。血液検査では、1歳未満のアレルギー性鼻炎患者が存在するという報告もある 。日本国内では正確な疫学調査が実施できず、本当の患者数、有病率、年齢的推移などの現状把握が十分とは言えないが、鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版(改訂第9版)のアレルギー性鼻炎・スギ花粉症の有病率の10年間の変化を見ると、多くの抗原において有病率の増加が顕著だ。アレルギー性鼻炎が他のアレルギー疾患の悪化原因であり、その後のアレルギー疾患への移行を考えれば、正確に診断し、早期に対策する必要がある。

写真はイメージ=AFP時事

写真はイメージ=AFP時事

 子どものアレルギー性鼻炎では、子ども特有な行動や動作に十分注意しなければならない。そのような行動に着目して、自宅でどのように生活しているかを保護者に問診することが重要だ。保護者からの情報では、過大評価や過小評価することもある。保護者自身のアレルギー性鼻炎罹患(りかん)の有無が、子どもの鼻炎をどの程度問題視しているかに影響する。

 (1)しぐさ、行動

 子どものアレルギー性鼻炎では、古くから鼻炎特有のしぐさがあることが知られている。鼻をこするため、外鼻孔の皮膚炎を起こしたり、鼻出血を起こしたりすることもある。顔をしかめる(facial mannerism)、アレルギー性会釈(allergic salute)、アレルギー性くま(allergic shiner)などがある。

 (2)環境についての問診例

 子どもが1日のうちで多く過ごす部屋は、どのようになっているか、ぬいぐるみは無いか、じゅうたんはあるか、兄弟がいて走り回ったり、転げ回ったりしていないか、屋外と室内とで症状の程度に違いがあるか、朝、起きがけに症状が出るか、季節性は無いかなど、詳細に問診する。学校生活では、どのような症状で困っているか、授業中に症状があるか、家庭と学校でどちらの症状がひどいかなども確認すべきだ。

 (3)家族歴

 花粉症はアレルギー疾患であるので、当然、家族歴が重要だ。少し観点が異なるが、アレルギー疾患を持つ親は子どものアレルギー症状をよく観察しているし、持たない親はアレルギー性鼻炎かもしれないという考えすら持たないこともある。従って、自分がアレルギー疾患を持つ親は子供の症状を正確か、やや過大に評価し、アレルギー疾患を持たない親は子どもの症状を過小評価する傾向にある。

 ◇診断方法

 アレルギー診療ガイドライン2020年版(改訂第9版)によれば、子どもに対しても同様の検査を行うのが原則だ。すなわち、①特異的IgE抗体の有無(皮膚テストまたは血清特異的IgE検査)②鼻水の中の鼻汁好酸球を調べる検査③鼻の粘膜の反応を見る鼻誘発検査-三つのうち、2項目以上陽性の場合、アレルギー性鼻炎と確定診断できる。

 このうち鼻誘発検査は、ほとんどの子どもで実施できないだろう。無理に行っても機械的刺激のために偽陽性になってしまう。また、市販されている鼻誘発ディスクはハウスダスト、ブタクサのみなので、診断価値が低いという事情もある。鼻汁好酸球の検査は、好酸球が陽性であれば診断意義が大変大きいが、子どもは大人よりも感染性鼻炎や副鼻腔(びくう)炎の合併が多いので、鼻汁中には好中球が多く、好酸球が陰性と判定されるケースも出てしまう。

水遊びする子ども

水遊びする子ども

 ◇年齢に応じた検査法

 おおむね、どの年齢では、どの検査が可能なのか、日常診療に基づいてまとめると以下の通りとなる。低年齢ほど個人差があり、高学年でも実施できないことがある。従って、検査そのものの精度は大人よりも低い。

(1)0~2歳

 鼻の奥を診る鼻鏡検査は十分行えず、鼻水の中の好酸球を調べる検査、血液検査、皮膚テストに慣れている看護師・スタッフの技量が無ければ難しいケースが多い。副鼻腔X-P検査は副鼻腔が未発達なので施行する意味が乏しい。鼻誘発テストはできない。

(2)3~5歳

 個人差が大きいが、皮膚テスト、鼻誘発テスト以外の検査は、ほとんどの患者で可能になってくる。

(3)小学生以上

 小学校低学年で鼻誘発テストができない患者もいるが、高学年以上になるとほぼ大人と同様の検査項目を実施することができる。

 ◇診断に当たっての注意点

 小児アレルギー性鼻炎と見分けるべき疾患として、急性鼻炎急性副鼻腔炎がある。子どもは純粋にアレルギー性鼻炎だけの症状があるのではなく、感染性鼻炎の影響を受けることが大人よりも高頻度だ。現在どちらの病態が主体なのかを判断し、それに応じた治療を優先する必要がある。また、短期間で病状が変化することも特徴だ。ガイドラインでも詳細に記載されている。感染性鼻副鼻腔炎が合併するケースでは風邪が先行し、鼻粘膜は赤くなり、鼻水は粘性で、のどや副鼻腔の痛みを伴うことが多い。発熱を伴い、期間は数日から1~2週間程度のことが多い。(了)


後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

【後藤 穣(ごとう・みのる)】
現職 
日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
日本耳鼻咽喉科学会専門医、専門研修指導医
日本アレルギー学会 常務理事、指導医・専門医
経歴    
1991年日本医科大学医学部卒業
2004年日本医科大学耳鼻咽喉科学 講師
2011年日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
2014年日本医科大学多摩永山病院 病院教授
2018年日本医科大学付属病院 本院復帰

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