腎性貧血治療薬である低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬ロキサデュスタットは、甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン(T3)と類似した化学構造を持つことから、甲状腺ホルモン代謝への影響が示唆されている。関西電力医学研究所糖尿病研究センターの原口卓也氏と同センター代謝・栄養研究部部長の浜本芳之氏らは、関西電力病院(大阪市)、岐阜大学との共同研究により、リアルワールドにおけるロキサデュスタットの甲状腺への影響について電子カルテデータを用いて後ろ向きに検討。ロキサデュスタットが遊離サイロキシン(FT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を低下させる可能性があるとJ Clin Endocrinol Metab(8月19日オンライン版)に発表した。

ダプロデュスタットでは有意に変化せず

 現在、日本におけるロキサデュスタットの適応症は腎性貧血のみだが、甲状腺ホルモン不応症についても検討が進められている。しかし、他のHIF-PH阻害薬も含め甲状腺機能検査値への影響は明らかでなかった。そこで原口氏らは、関西電力病院でロキサデュスタットあるいはダプロデュスタットを投与し、投与前後に甲状腺機能検査値を測定していた患者を対象に血液検査結果および臨床学的指標の変化を後ろ向きに検討した。

 解析の結果、ダプロデュスタット使用例では投与前後でTSH、FT4のいずれにおいても有意な変化は認められなかった〔TSH:投与前3.044μIU/mL(1.853~4.171μIU/mL)、投与後2.893μIU/mL(1.866~4.894μIU/mL)、P=0.635、FT4:投与前0.93ng/dL(0.81~1.00ng/dL)、投与後0.97ng/dL(0.87~1.05ng/dL)、P=0.328〕。一方、ロキサデュスタット使用例では投与前後でTSH、FT4のいずれでも有意な低下が認められた〔TSH:投与前2.4732μIU/mL(1.7858~4.9016μIU/mL)、投与後0.659μIU/mL(0.112~2.005μIU/mL)、P<0.05、FT4:投与前0.93ng/dL(0.84~1.05ng/dL)、投与後0.70ng/dL(0.53~0.85ng/dL)、P<0.01、〕。

 この結果を受けて同氏らは「ロキサデュスタット特有の現象として投与後にTSHおよびFT4の低下を認めることが示された」と指摘した。

図. ロキサデュスタットおよびダプロデュスタット使用前後における TSH およびFT4 の変化の相関関係

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(岐阜大学プレスリリースより)

 また同氏らは、ロキサデュスタット使用例におけるFT4と総コレステロール値およびクレアチンキナーゼ(CK)値の変化についての相関関係を検討。FT4低下例において明らかな総コレステロール値およびCK値の上昇は認められなかった。

 以上の結果について、同氏らは「ロキサデュスタットが体内で甲状腺ホルモン様作用をしている可能性が示された」とし、「検査値通りの甲状腺機能低下症の症状を示さない可能性も考えられることから、ロキサデュスタット使用例では甲状腺ホルモン検査値の解釈に注意が必要」と付言した。同氏らは「今後は前向き研究や基礎研究を通じて、HIF-PH阻害薬と甲状腺機能の関連についてより詳細な検討が必要であり、ロキサデュスタットに甲状腺ホルモン様作用を実際に認めるか否かについてはさらなる研究の進展が望まれる」と展望した。