生活習慣の改善を通して高血圧の改善を支援する世界初の高血圧治療補助アプリCureApp HTは、2022年9月に保険収載されて以降、全国で導入が広がっている。株式会社CureApp取締役で聖路加国際病院(東京都)集中治療科の谷川朋幸氏は、9月26日に東京都で開かれた記者発表会で、実臨床における降圧効果について報告。自院で処方を行った野村医院(東京)院長の野村和至氏は、利用者の実際や今後の可能性について述べた(関連記事「高血圧治療アプリの降圧効果を確認」「世界初の高血圧治療用アプリが販売開始」)。

HERB-DH1試験では有意な改善

 高血圧治療の第一選択は生活習慣の是正だが、①診療と診療の間に指導の空白期間が生じる、②血圧管理の多岐にわたる内容を来院時だけでは伝えきれない、③自己管理が難しい―などの課題がある。

 CureApp HTは、アプリ上のキャラクターとの対話を通して高血圧管理の知識の習得、生活習慣是正の実践、習慣化を促す治療補助アプリである。保険償還価格は、6カ月間のプログラムに対し月額2,490円(患者負担3割の場合、初月のみ2,910円)である。

 2019年12月に開始された国内第Ⅲ相臨床試験HERB-DH1では、本態性高血圧患者390例を対象にアプリの有効性と安全性を検討。その結果、登録後12週時点において対照群(生活習慣の改善指導のみ)と比べ、アプリ介入群(生活習慣の改善指導+アプリ介入)で24時間収縮期血圧(SBP)、起床時家庭SBPともに有意な改善が認められている(Eur Heat J 2021; 42: 4111-4122)。

 ただし、対象が65歳未満かつ降圧薬未使用例だったことから、高齢者や薬物併用下での効果については不明だった。

321例の降圧量を評価

 今回は、2022年9月~23年4月にCureApp HTを処方され、家庭血圧を1回以上入力した患者554例を対象に、アプリ使用による降圧効果を検討。ベースラインおよびアプリ使用開始12週後にそれぞれ週5日以上血圧を入力した321例について、アプリ使用開始後12週時点の降圧量を評価した。年齢、アプリ使用開始時点での降圧薬服用の有無、塩分チェックシートスコア、BMIについての層別解析も実施した。

 患者背景は、女性が263例(47%)、平均年齢が55.1歳(範囲22~87歳)で、65歳以上は115例(21%)、降圧薬内服ありは248例(45%)だった。

65歳以上、服薬あり患者でも治療効果示す

 検討の結果、アプリ使用開始12週後のベースラインからの降圧量は、全体において起床時SBPで-8.8mmHg(95%CI -10.2~-7.5mmHg)、就寝前SBPで-8.5mmHg(同-10.1~-6.9mmHg)と有意な改善を示した(どちらもP<0.001、)。

図、全体における収縮期血圧の変化

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 (CureApp提供)

 65歳以上では、起床時SBPで-11.8mmHg(95%CI -14.8~-8.7mmHg)、就寝前SBPで-10.1mmHg(同-12.8~-7.4mmHg)と有意に改善し(どちらもP<0.001)、全体と比べてベースラインからの降圧量が大きかった。

 ベースライン時に服薬していた患者においても、起床時SBPで-7.5mmHg(95%CI -9.6~-5.4mmHg)、就寝前SBPで-7.2mmHg(同-9.7~-4.8mmHg)と改善効果を示した(どちらもP<0.001)。

 2023年8月時点で報告対象となる健康被害はなかった。

 谷川氏は「実臨床において、治験結果を補完する形で高齢者や服薬あり患者を含む高血圧患者に対するアプリの治療効果が示された」とコメント。一方、「実臨床での結果は適切な対照がない点などの制限があり、その解釈については慎重に行う必要がある」と指摘した。

治療意欲向上のためのアプローチに期待

 野村氏は、野村医院の患者において減量や減塩に成功する事例が多く見られ、生活習慣を是正できた患者が多かったことを報告。医療機関側で診察日以外の日の患者の血圧平均値や減塩、減量、運動などに関する活動記録を確認できたことで、より適切なアドバイスが可能になったという。

 同氏は「医療デジタルトランスフォーメーションの推進により、今後はより詳細で正確なヘルスデータの集積および問題の把握、専門性が高い継続した生活指導が可能になるだろう」と展望。一方で治療中断の防止や治療に対する意欲・自己効力感の向上のためには「離脱モデル、成功モデルのデータ蓄積と適切なアプローチの更新が期待される」との考えを示した。

(植松玲奈)