政府は認知症対策を「国家プロジェクト」と位置付け、検討に向けた会議を立ち上げた。数ある課題でも、当事者や家族が希望を持って暮らせる「共生社会」づくりが重要な柱。その一環として、認知症の人を地域で支え、交流する場を設ける動きが注目されている。
 東京都調布市の京王線仙川駅近くのカフェ。認知症の人が店員を務める「オレンジデイ SENGAWA」が月に一度店を開く。ポスターには「認知症の方が社会で活躍する機会をつくるために開催している『注文をまちがえるカフェ』です」。趣旨を理解し、ミスをとがめる客はいない。
 のんびりした雰囲気で店員はスタッフや客と繰り返し注文内容を確認。割れにくく軽い食器、各テーブルに違う色の花を目印に置くなど工夫も凝らす。
 店員の一人で数年前に認知症を発症した森田利雄さん(86)は、社交的な人柄が評判だ。妻の正子さん(80)によると、毎月の接客を楽しみにし「数日前からそわそわしている」そうで、「本人の希望通り体を動かせるのはありがたい」と笑う。
 開店のきっかけはオーナーの漢那亜希子さん(51)の父親が認知症になったことだ。「少しでもできることはないか」と地域包括支援センターなどの協力を得て4月から運営を開始。スタッフ4人は全員認知症サポーターの講座を受けた。
 店員やスタッフはボランティアで働き、住民や当事者ら20人前後が訪れる。貴重な交流の場になっており、カフェの共同代表の岩田結依さん(37)は「認知症になって初めて情報を得るのではなく、その前から学べる機会が必要。認知症の人が外に出る一助にもなれば」と話す。
 6月に成立した認知症基本法では、当事者の社会参加を重視している。「病気があってもやりがいを感じられる場があることが大事」と岩田さん。政府は会議で出た当事者や家族の意見を年内に取りまとめ、施策の基盤となる基本計画の策定につなげる方針だ。岩田さんは「認知症の人の人生がどうすれば豊かになるか、(政府方針を)カフェの運営にも反映させたい」と話す。 (C)時事通信社